日本基督教団小月教会

ヘンデル オラトリオ「メサイア」

ヘンデル オラトリオ「メサイア」 ■指揮/オットー・クレンペラー
■管弦楽/フィルハーモニア管弦楽団
■合唱/フィルハーモニア合唱団
■独唱/エリザベート・シュヴァルツコップ 他

メサイア。英語で「Messiah」ですが、言うまでもなくヘブライ語の「メシア」、ギリシャ語の「キリスト」(クリストゥス)。「油注がれた者」「救世主」、すなわち主イエスの事です。この曲はキリスト教音楽における巨大な金字塔であると共に、後半の有名な「ハレルヤコーラス」で、一般にも非常によく知られた作品となっています。

ヘンデルの驚くべき才能がいかなる物であったか示すには、この2時間半に及ぶオラトリオの総譜全260ページを、ヘンデルがわずか24日で書き上げた事を記せば、十分でありましょう。ヘンデルはドイツ人で、ルーテル派のキリスト者でした。まさに「神の霊感」が働いていたとしか言い様のない偉業です。

もっとも、ヘンデルはイギリスに移住し(そのため、名前は「ゲオルク・フリードリヒ」ではなく「ジョージ・フレデリック」と呼ばれる)、イギリスは当然英国国教会(聖公会)であったのですが、英国国教会との衝突に随分苦しんだようです。これについて書くと長くなりますので、割愛。

さて、宗教音楽で聖書にテキストをとった大作と言えば、J.S.バッハの「ヨハネ受難曲」「マタイ受難曲」があります。あちらは、タイトルの通り両福音書から歌詞を取り、登場人物もキリスト、ペトロ、ピラト、イスカリオテのユダなどがおり、大変物語性豊かな作品ですが、ヘンデルの「メサイア」においては、登場人物は登場せず、一貫した物語がある訳ではなく、歌詞で台詞が語られる事もありません。

バッハが、福音書の物語そのままにキリストの受難劇を語ったのに対し、ヘンデルはあくまで預言とその成就という形で、教義としてのキリストの降誕、受難、そして勝利を描いていると言えます(だから、旧約からかなり多くの聖句がひかれています。特にイザヤ書が多い)。そして音楽は有名な「ハレルヤコーラス」で頂点に達します。

有名な逸話がありますが、イギリス国王ジョージII世が、演奏がハレルヤコーラスに差し掛かった時、感動のあまり思わず立ち上がったそうです(そのためか、この曲の演奏においてはハレルヤコーラスでは起立するというのが慣習のようになっていますが、個人的にはこの慣習には同意できません。とあるオーケストラの団員が「ジョージII世のように、心から感動して思わず立ち上がるならともかく、お約束のように立ち上がられたのでは、演奏の邪魔にしかならない」と言っていました)。

キリスト教には興味がなくとも、この曲が好きなクラシックファンは大勢います。しかし、キリスト者こそこの曲を聴くべきです。歌詞は全て聖書から。しかも、ラテン語(ほとんど全てのミサ曲)やドイツ語(バッハのカンタータなど)ではなく、英語ですから、理解しやすいはず。何より、歌詞である聖句に親しんでいるというのはこの曲を理解するための、大きな強みです。

冒頭は、こんな歌いだしです。「Comfort ye, comfort ye my people, saith your God.」(慰めよ、わたしの民を慰めよと あなたたちの神は言われる)。そう、イザヤ書40章の冒頭です。この歌詞の意味を知っているのと、知らないのとでは、聴いた時の感動が全く違うのです。

そして、有名なハレルヤコーラス。ここの歌詞はヨハネ黙示録19:6、同11:15、同19:16から取られています(19:16は「王の王、主の主」だけですが)。ここだけ聴けば単なる有名曲ですが、冒頭から聴けば感動が一気に最高潮に達するはずです。それゆえ、この箇所をテレビのバラエティ番組などで、単なる「おめでたい効果音」のように使われるのには、少々反感を覚えます。競馬のファンファーレとか福引きの「からんからん、大当たり!」じゃないんだから(笑)。

その後、コリントの信徒への手紙第一からのテキストでいくつかのアリアと合唱が続き、ラストは「玉座にすわっておられる方と小羊とに、賛美、誉れ、栄光、そして権力が、世々限りなくありますように。アーメン」(ヨハネ黙示録5:13)で、輝かしく全曲を閉じます。曲中にキリストの台詞は1つも出て来ませんが、「マタイ受難曲」とはまた違った形で(こちらの方が先に書かれています)、キリストの栄光を見事に表出した、不世出の傑作と言えましょう。

CDですと2枚にわたる長い曲ですが、できれば歌詞を見ながら聴いてみてください。イースターから復活節に、主のご栄光を思うのにぴったりの曲です。



〒750-1144 山口県下関市小月茶屋3-2-2
日本基督教団小月教会
TEL 083-282-0805
FAX 083-282-0865