ここに「�~の殿」なる句が三度用いられてゐる。普通の見方は、これを個々の信者と見るのである。クリスチャンはうちに聖靈を宿すものであるゆえ、�~の宿りたもう處、すなわち「�~の殿」である。ゆえに「聖きもの」である。さればこの聖き�~の殿すなわちクリスチャンを毀つ者は、かならず�~の毀つところとなる。手をもつて造れる�~殿は、これ決して�~の住みたもう處でない。

　

　「至高(いとたか)き�~は、手にて造れる處に居たまわず」（使徒行傳七章四八節）とある。今や�~の靈おのおののクリスチャンに宿りて、各自が一人一人「�~の殿」である。この意味において、我ら各々は聖く、貴く、永久的の値いあるものである。人よ、クリスチャンを毀つなかれ、クリスチャンよ、みずからを重んじて汚すなかれと、これをパウロの意味であるとなすのが普通である。

　

　然るにこの兩節を�画､して見ると、右の見方のすこしく誤れることに氣づくのである。そしてそれがわずかの誤りのごとくであつて、實は大なる誤りであることを知るのである。日本語には、名詞に單複の区別なきため、この點不明であるが、原文聖書または英譯聖書によれば、「汝ら」という主語は複數であるのに、「殿」という客語は單數である。すなわち十六節には ye are a temple of God とあり、見れば、十七節の最後には which temple ye are としるされてゐる。これによつて汝らの一人一人が各々一殿であるというのではなく、汝らすべてで一の殿を形づくつてゐるというのである。すなわちクリスチャンのある一団（この場合においてはコリントの�ﾍ會）が聖靈の宿る處であつて、換言すれば、一の「�~の殿」であるというのである。このことを知らざるかとコリントの信者に言いたるパウロは、今もし我らのあいだにありとせば、我らに對しても同樣にかく言うであろう。眞に汝らは一の�~の殿なることを知らざるかと。すでに充分に知りおるべきはずのこの道理を知らざるかと。

　

　葡萄樹の枝は、その樹をはなるれば枯死する。人體の各肢體（目、耳、手、足、指等）は、その體をはなるれば死滅する。枝たるもの、肢体たるものは、生きんためにはぜひともその本體につながりおらねばならぬ。聖靈は団体の上に降る。兄弟姉妹の集合せる處に�~の殿は成り立つ。ゆえに聖靈を受けんためにはこの�~の殿の一部と成らなくてはならぬ。そして�~の殿にありて、ともに聖靈の滋雨に浴さねばならぬ。�~の殿をはなれては、本體より切りはなされし肢体のごとく、死滅するほかはない。ぜひとも兄弟姉妹とともに一団となりて、その中にありて聖靈の雨を浴びねばならぬのである。

　

　このことを裏書きするものとして、我らは詩篇第一三三篇を引用したいのである。

　

　

　これ實に簡潔にして優美なる詩として、もつとも代表的なものである。一節は兄弟姉妹の美しき団居(まどい)を述べしものであつて、いかに獨立を愛重する者にも、この一節の貴さは充分に感知せられるのである。二節は我ら日本人にはすこしく奇怪なる形容のごとく見ゆるけれども、鬚々(さんさん)として垂るる美しき鬚を有するシエム人種のあいだにありては、いかに良き形容として感ぜられたことであろう。アロンの首にそそぎたる貴き香膏が、その鬚に流れ下り、それより垂れて衣におよび、さらに衣を流れくだりてついにそのすそにおよぶというのである。これ聖靈のくだるさまをたとえたのである。三節上半は、ヘルモン山に流れそそぐ瀧のごとき雨が、ついに乾けるシオンの山をまでうるおすの意であつて、これまた聖靈のくだるありさまを描いたものである。アロンは祭司長の就任式において、モーセにより、その首に香膏をそそがれた。「モーセ…また灌膏をアロンの首にそそぎ、これに膏をそそぎて聖別(きよ)めたり」（レビ記八章十二節）とあり、それよりさき、モーセはエホバより「灌膏をとりて、これを彼（アロン）の首にかたむけそそぐべし」（出エジプト記二九章七節）と命ぜられてゐる。あふるるばかりそそがれし香油は、衣のすそにまで流れ下るのである。北の方ヘルモンは露しげき山である。傳え聞く、スリヤの夜には強雨多く、ことにヘルモン山には豪雨瀧のごとく降りて、雪とともに流れ下るという。南の方シオンは、乾ける地に立つ乾ける山である。その缺くるところは露なるがゆえに、望むところもまた露である。ありあまるヘルモンの露は、シオンの山をまでうるおすのである。アロンの首にそそがれし膏のごとく、ヘルモン山に降りし露のごとく、聖露は流れくだりて、会衆の上にとどまるのである。さればそこに�ｎモｪあり、かぎりなき生命がある。第三節後半「そはエホバ、かしこに（その集会の上に）�ｎモ�くだし、かぎりなき生命をさえ與えたまえり」とあるはこれである。

　さればこの歌は、�~の靈、あぶらのごとくまた露のごとく上よりくだりて、一団の会衆の上に臨むありさまを描いたのである。聖靈は膏である、聖靈は露である。魂の傷を癒し、魂の渇きをうるおす。その会衆の上にくだるありさまを美わしく描きたるこの歌は、「�~の殿」を歌える歌としてもつとも優れしものであると言わねばならぬ。

　次ぎにこの問題について見るべきは、使徒行傳第二章の有名なるペンテコステの記事である。

　

　

ここに代表的なる聖靈降下の叙述がある。この問題についてもつとも有名なるこの箇處は、三節において明記さるるごとく「焔のごときものあらわれ、分れて、彼ら各人の上にとどまる」と言う。すなわち聖靈は初めから別々に一人一人の上に降つたのではなくして、まず焔のごとき一つのものとしてあらわれ、それが分れて各人の上にとどまつたのである。「分れて」は意譯である。改譯聖書に「火のごときもの、舌のようにあらわれ」とあるは、原意に忠ならんとつとめたのであろうが、不正確な譯である。「あたかも火の分れし舌のごとく」とでも譯すべきであろう。すなわち一の火がありて、それよりいくつかの舌が出でて、その一つ一つの舌が各人一人一人の上にとどまつたというのである。火は一としてくだる、そしていくつもの舌を出して、各人の上にとどまる。これ使徒行傳第二章に記さるる聖靈降下の姿である。

　聖靈を受くることは、クリスチャンとしてもつとも大切なることである。このことなくしては、いかに聖書を反復熟讀するも、いかに萬巻の註解書を讀破するも、いかにグリーク、ヘブライの原語を�焔�するも、心靈上にはいささかの效果がない。否な、かえつて心靈を毒するのみである。不消化の知識は今や日本人を苦しめつつある。知識を山のごとく貯えて、しかも人生の方向に迷いつつある人のいかに多き。ことに聖書の研究においては、聖靈をともなわざる知識は有害無益である。「人、聖靈に感ぜざれば、イエスを主と言う能わず」（コリント前書十二章三節）とある。我らは聖靈を受けてクリスチャンとなり得、また聖靈を受けて信仰生活の維持進展をなし得るのである。聖靈血を受くるのは信仰的生涯の最必要事である。

　

　然らばいかにして聖靈を受けんか、これ問題である。密室の熱烈なる祈り、ひとり山中に分け入りて谷川の調べと鳥の歌に合せてささげらるる靜かなる祈り、それも貴くもありまた必要でもある。しかしこれのみにては聖靈の恩賜にあずかることはできない。これのみに訴うるははなはだ不充分である。前にも説明せしとおり、�~の靈は「�~の殿」にくだる。集會の上に、膏と露と焔とはくだる。そしてこれが會衆の上に分れてくだるのである。過去において聖靈はおおむねかくのごとくにしてくだつた。ゆえに今においても然り、また将來においても然るであろう。集會の必要、祈祷会の必要ともに�ｉｹを學びともに父に祈るの必要は、ここにおいてか起るのである。孤立は大なる禍いである、聖靈の下賜をさまたぐることである。我らは相つらなり相結びて、全体において一の「�~の殿」を形づくり、この殿の上に一としてくだる聖靈を、各自が分與せらるるようつとめねばならぬ。それが余輩の長年唱え來りし無�ﾍ会主義にそむかざるか如何は別の問題である。それが如何であつても、聖靈降下の道は過去の事實に訴えて明らかである。會衆相結びて一の「�~の殿」を造り、そして各自が�~の靈を受くべきである。