10月 1日(日)「あがないと献身− 十字架の意味」説教要旨
   Tペテロ  2章 20節〜25節

  Tペテロは、十字架を義からでなく、愛からでもなく、「不条理の苦しみ」から説きます。その意味で、これはきわめて現代的です。今日いろいろな災害、戦争その他不条理の苦しみで満ちているからです。しかし、「どうして神の世界に不条理な苦悩があるのか」という問いは、実は「神の世界には不条理の苦しみはあってならない。なぜなら、神は正しい愛の神だから」という信念で貫かれています。
  けれども、聖書はそうは言いません。「もし誰かが、不当な苦しみを受けても、神の良心のゆえに、耐え忍ぶなら、それは恵みです。もし罪を犯して、打ち叩かれ、耐え忍んだとしても、それが何のほめられたことでしょうか。しかし、善を行って苦しみを受け、耐え忍んだなら、これこそ神からの恵みにほかなりません。あなたがたは、そのように召されたのです」と告げます。
  世の中には「不当な苦しみ」に、うらみと憎しみで対応する態度が横行しています。人間的にはそれは当たり前とも思えます。しかし、ここにはもう一つの態度があります。「神の良心のゆえに、耐え忍ぶなら、それは恵みです」。「神のよき御心のゆえに」、それは今は分からないかも知れません。神の良心です。善を行って苦しむ。戦争中、上官の罪をなすりつけられ、戦犯で無実の刑で、死刑の判決を受けた兵隊がいます。彼が出会ったのもイエスの十字架でした。彼は、「ここに私と同じ不当な苦しみの極みの人がいる」と洗礼を受けました。

  「あなたがたは、そのように召されたのです。キリストもあなたがたのために苦しみを受け、その足跡に従うようにと、模範を残されたのです」。皆さん、よいことをして苦しみを受ける、そういうことが、この世にあってよいのでしょうか。しかし、もし「そうするように召されていなければ」、「善をして苦しみを受けることに何の意味があるでしょうか」。反対に、不満と絶望とうらみ、つらみ、そしてただ虚無的になるのがおちではないでしょうか。
  「召された」とは、神がそこへと呼んだという意味です。「そこへ」とは、キリストの十字架の御苦しみの場所、ゴルゴタの丘へです。世の中には、悪いことをして、罰として苦しみを受けることがあります。また悪いことも良いこともしないが、不幸やめぐりあわせで、苦しみこともあります。しかし、本当の苦しみの意味は、「十字架」にあります。
  十字架は人生の苦難が、そこから出る始まりであると共に、そこへと向かう目標でもあります。世の中には、善を行って誉れや栄誉を受けることもあります。しかし、それは帳尻があっていて当たり前です。また悪いことをして罰を受けるのも当たり前です。何も、信仰も宗教もいりません。問題は、善を行って苦難を受けることにあります。それは神が、そこへと召しておられるのです。私たちは善を行って苦しみを受ける時、主の十字架の後に従う者となるのです。

  最初言った、「不条理の苦しみ」、実はそれなしには、神の愛も神の摂理も、不思議な恵みの真理も分からないのではないでしょうか。もちろん、十字架に従うといっても、キリストと同じようになることではありません。私たちには罪人の罪を負い、あがなうことはできません。
  「千歳の岩よ、我が身を囲め、さかれし脇の、血潮と水に、罪もかがれも、洗い清めよ。かよわき我はおきてに耐えず、もゆる心も、たぎつ涙も、罪をあがなう力はあらず。・・・世にあるうちも、世を去る時も、知らぬよみにも、さばきの日にも、千歳の岩よ、我が身を囲め」。このように私たちは、罪人の罪を負い、あがなうことはできませんが、あがなわれた喜びから、この御苦難の主の「御足の跡を踏む」ことはできるし、そのように、そこへと召されているのです。すでに主ご自身が道を開き、足跡をつけてくださった、その御足の跡をたどって、あとからついて行くことはできるのです。私たちは、そこへと召されているのです。そこへ来いと呼ばれているのです。
  その時、受けた苦しみは大きく、その苦しみは不当で不条理のものであっても、不条理のものであるればあるほど、たといその苦しみは大きくとも、意味があり、魂の牧者のもとで祝福を受けるでしょう。北アイルランドの平和運動家の牧師は、もう平和運動からおさらばしたいと思いました。その時、手招きするのは十字架のキリストでした。

  私たちの魂の牧者よ、不当な苦しみの中で、人を見ずに、世界でただ一人最も大きな不当と不条理のために、十字架を受けて死なれたお方を見上げさせてください。あの横木の上で、苦しみつつ、私のためにも祈ってくださるお方を仰がせてください。

ぜひ、あなたも礼拝に出席して直接お聴き下さい。一人でも多くの方のご出席を心からお待ちしています。
   


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