説教要旨

	4月5日（日）「十字架への道」説教要旨ルカ23:39-43 　十字架について注目すべきことは、皆がイエスをののしっていることです。「彼は他人を救った。もし彼が神のキリスト選ばれた者であるなら、自分自身を救うがよい」他人を救って、自分を救えない、そんな救い主ってあるか。人に絵を教える人は、自分自身絵が上手に描けないとおかしいでしょう。しかし、皆さん、この民衆の罵りの言葉に、キリストの十字架の本当の意味が隠されているのです。世の中は、ひとは蹴飛ばしてでも、自分だけは救われたいという人で満ち満ちています。そういう人びとにとって、世にも珍しい、「自分を救わないで、ひとを救う方」は理解できないのです。コルベ神父さんは、アウシュヴィッツで飢餓室で殺される人の代わりに、自分が殺されることを申し出ました。彼は自分を救わないで、ひとを救ったのです。それはこの十字架のキリストの仕方に習ったのです。　けれども、この罵倒の嵐の中で、たった一人、イエスの真の姿を理解していた人がいました。それは十字架につけられていた、もう一人の犯罪人です。彼は悪口を言い続ける男をたしなめました。「お前は同じ刑を受けながら、神を恐れないのか。お互いは自分のやったことの報いを受けたのだから、こうなったのは当然だ。しかし、この方は何も悪いことをしたのではない」と。そしてイエスに向かって言いました。「イエスよ、あなたが御国の権威をもっておいでになる時には、私を思い出してください」この人は驚くべきことに、実に最初の告白者、第一のキリスト教信仰者になりました。　確かににずっと前にペテロは、「あなたこそ神の子キリストです」（マタイ16:16) と告白しました。しかし、それは平穏無事の時で、いざイエスが十字架にかけられる時、「その人を知らず」と言って否定しました。弟子のトマスが、「わが主よ、わが神よ」（ヨハネ20:28) と言ったのは、復活の後です。　イエスの復活を見て、信じ、告白した人は無数にいます。けれども、ここに世界でただ一人、十字架だけで信じた信仰者がいました。自分も十字架にかけられた、絶望的な状況の中です。今日、経済危機とか、医療危機とか言われます。失業の恐怖、破産の心配、それは実に深刻です。しかし、どんなに深刻でも、この十字架につけられた犯罪人ほど、危機的で恐怖に満ち、深刻な人はいないでしょう。この絶望的な人が、イエスの真の姿を見抜き、助けを乞うたのです、「イエスよ、あなたが御国の権威をもっておいでになる時には、私を思い出してください」と。彼ははイエスが｢主｣だということを知っていたのです。　イエスは答えられます、「あなたは今日、わたしと一緒にパラダイスにいる」このイエスの答えで不思議なのは、決してイエスが主語ではないことです、「あなたは」であって、「私は」ではありません。「あなたは、私と一緒に」です。クリスマスの時の「インマヌエル、神われらと共に」と違います。いわば「インマヌエル、われら神と共に」です。恵みの主は、私たちを主語にしてくださいます。今絶望的な状況にある犯罪人を引き立て、勇気を与え、その信仰を高めてくださいます。「神われらと共に」だけですと、私たちは受け身になります。しかし、十字架のイエスは、「あなたは私といっしょに」と言ってくださいます。その十字架で苦しんでいる、今死なんとしている、今わの際の絶望人に、「あなたは」と呼びかけ、「あなたは」を主語にしてくださいます。これは、私たちが死に直面した時の希望でもあります。　そして「今日」です。明日、明後日ではありません。もちろん三年後ではありません。イエスの約束は「今日」です。ふつう｢私たちは死において眠っていて、キリスト再臨の時、目を覚ますのではないか｣と言うでしょう。しかし、カルヴァンは言いました。神さまには、一日は千年のごとく、人間のこの世の時間を超越しているから、「今日、パラダイスにある」と言ってもかまわないのだと。神にとっては今という時間がすべてなのです。　けれども､そこには､この犯罪人の告白が先にあるわけではありません。その前に実にイエス・キリストのゆるしの祈りがあるのであります。｢父よ､彼らをゆるしてやってください｡何をやっているのか､分からずにいるのですから｣（34節) この祈りは決してこの犯罪人のために、あるいは当時の人びとのためにだけあるのではありません。ほかでもなく、十字架の主は、あなたのために祈っておられるのです。しかも、忘れてはいけません。あなたの罪のために、あなたの良いところではなく、むしろあなたの悪いところ、あなたが忌み嫌い、憎み、いやだと思い、そんなところはなければいいのにと思っている、そのことのために、今、十字架の主が祈っておられるのであります。わたしの中には、罪、悪いことが一杯詰まっています、それが十字架の祈りの対象なのです。　次に、そのあなたの罪のために十字架の主は、血を流すまで、戦ってくださったのです。確かにわたしたちも、苦しみの中で祈ります。しかし、それはただ苦しみから逃れることに集中していないでしょうか。けれども、今十字架の主の祈りは、自ら苦しみから逃れるためではなく、かえって自分が苦悩を負って、他の人の苦しみ、罪をゆるすことに集中します。わたしたちは、ふつう悪いことを見れば、非難します。さばきます。さばくことによって、自分の悪をカバーします。しかし、イエスは十字架の上でゆるします。それは、ほかでもなく十字架の上で、わたしたちの罪をカバーすことなのです。「愛は多くの罪をおおう」（Ⅰペテロ4:8）ふつう正義は罪をあばき、さばきます。そして怠惰は、罪をごまかします。けれども「愛は多くの罪をおおうのです」。
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