元気の出るダイアル  2020年3月29日    憎しみの淵に橋をかけよう

大正時代の作家、菊池寛の「恩讐のかなた」「青の洞門物語」という短編小説があります。父親の仇を討つために9年間全国を探し回った主人公がついに九州大分県で仇を見つけた。ところが僧侶となっていた仇は罪滅ぼしのために渓谷の崖路に19年間もトンネルを掘り続けて村人を転落事故から守ろうと決意していた。トンネルが開通するまでは待ってくれと願う僧侶のため、主人公は一緒になってトンネルを掘り、2年間寝食を共にした。開通した夜、今こそ父の仇を討ち長年の恨みを晴らせという僧侶に対して、主人公は復讐の心を捨て、仇を赦し、和解し、積年の恨みから解放されるという人情物語です。若い日に読んでたいへん感動しました。私たちの生活を暗く悲惨でみじめなものにしてしまう一つは「憎しみ」ではないでしょうか。

世の中は理不尽こと、納得の行かないことで満ちています。仕返しをしたくなるほど傷つけられることもあります。あの人のせいで私の人生も家族もボロボロにされた。決して許せない。そんな憎悪の炎が燃え盛っているかもしれません。「あなたのうらみ晴らします。復讐、仕返し代行。40年間の実績有り」という広告がインターネットで紹介されていて腰が抜けるほどびっくりしました。でも恨みを晴らして、果たして人はすっきりするでしょうか、それで救われるでしょうか。本当の幸せを得ることができるのでしょうか。

キリストは2000年前、弟子たちに「私は新しい戒めを与えます。私が愛したように、あなた方も互いに愛しあいなさい」(ヨハネ1334)と兄弟愛を命じました。この新しい戒めは「神の国」の信仰に生きる者たちへの命令であり、御国の子供たちの新しい生き方、ライフスタイルの最大の特色を指しています。そして「我らが罪を赦す如く。我らの罪をも許し給え」と祈る「主の祈り」を教えました。

アダムから数えて7代目にレメクという人物が登場します。彼は「カインのための復讐が七倍ならレメクのためには七十七倍。」(創世記424)と「復讐の歌」を教えました。倍返しどころか77倍返し。仕返しに全生涯をかけてしまう、そしてそこから逃れられない。これこそ呪いそのものではないでしょうか。

光の子供たちには、復讐の歌ではなく、十字架の赦しの歌があります。神の国に属する者たちには「主の祈り」があります。教会は「主の祈り」を礼拝のたびごとに捧げます。赦された私たちだからこそ、赦しの中を歩むことができるのです。レメクの復讐の歌が感情を激しく興奮させるようなとき、私たちの霊には「主の祈り」が聖霊によって静かに響くのです。「私があなたがたを愛したように」と十字架の歌が響くのです。これこそ御国の歌です。

御国の子たちによって、憎しみの淵に和解の橋が架けられるのです。
その一歩はまず、あなたの家族から。


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