天に国籍をいただきクリスチャンとして歩みだす際に、世界中の教会において洗礼式あるいはバプテスマ式が、兄弟姉妹の祈りと祝福の中で行われます。イスラエル旅行の最中にヨルダン川でバプテスマを受ける方々もおられます。私の父は若き日に宣教師からバプテスマを受けましたが、やがて数十年間、信仰から離れてしまいました。晩年リバイバルした時、再決心して牧師から海でバプテスマを受けました。脳梗塞で足が不自由なため、牧師に迷惑をかけないように事前に私に予行演習をしてほしいと頼んできました。父と二人で海へ出かけバプテスマの練習をしたことを思い出します。イエス様を心に信じているのだから、なにもバプテスマを受けなくてもいいじゃないかと思う方もおられますが、聖書は「人は心に信じて義とされ、口で告白して救われる」（ロマ10：10）と明言しています。さらになによりも、イエス様自身がバプテスマのヨハネからバプテスマをお受けになったのですから、私たちもバプテスマを受けることは、主イエスに従う者としてふさわしい応答であると思います。

1.　罪なき神の御子のバプテスマ

預言者ヨハネは「罪が赦されるための悔い改めに基づく」（3：3）水のバプテスマをヨルダン川で行いました。ところが罪のない神の御子であるイエス様もバプテスマをお受けになりました。本来、イエス様には必要のないバプテスマのはずです。ヨハネが「私こそあなたから受けるはずですのに・・」と問いかけると、イエス様は「すべて正しいことを実行するのは私たちにふさわしいことです」（マタイ3：15）とお答えになりました。神から遣わされる預言者も神から遣わされる救い主キリストも、神の御こころに従うことこそが「私たちにふさわしい、ただしいこと」なのです。罪のない聖なる神の御子キリストが、罪びとの一人となりきって私たちの罪をその身に引き受け、十字架で身代わりとなって神の裁きを受け、血を流し、いのちを捨てて、すべての罪ある者たちの罪を贖い、赦しきってくださいました。神の救いのご計画に基づいて、イエス様はバプテスマを受けられたという深い意味と目的がそこにはありました。このようにイエス様は神の御こころ・ご計画に最初の誕生から十字架の死にまで従われたのでした。

2.　私たちがバプテスマを受ける目的

宇治バプテスト教会の皆さんは、バプテスマ入門クラスで学んだように、バプテスマには3つの意味があります。バプテスマは入園式であり、イエス様との結婚式であり、古い自分に対するお葬式です。これは人生の三大イベントと重なります。

・バプテスマを受けることをまるで卒業式と勘違いしている人がいます。祈りも奉仕もクリスチャンらしさもすべてがほぼ出来上がってからバプテスマを受けるとしたらそれは入園式ではなく研究者として巣立つ大学院の卒業式のようなものです。親にとってうれしいことは子供が保育園や幼稚園や小学校に入園、入学するときではないでしょうか。それは「出発」であり「スタートライン」に立つことであり、決して「ゴール」ではありません。ですから気負わないで、おさなごのような柔らかなこころをもって、神の御国に「入園」してください。

・そしてあなたの唯一の救い主イエス様と生涯をともに歩み続けていく結婚生活を送ってください。この世では結婚・離婚が日常茶飯事で繰り広げられていますが、イエス様があなたを見捨てることは決してありません。「砂の上の足跡」の詩のように苦難の時こそイエス様が背負って歩んでくださるのです。昔アルバイト先で生活に苦労して働いていた婦人がおられました。生まれた子供さんが障害をもっていたため、「こんな子はうちの血筋にはいない」と嫁ぎ先から言われ、離婚させられたそうです。これが罪ある生まれながらの人間の悲しいほど実態です。イエス様の中には「永遠の愛」があり、途絶えることのない「聖霊の愛」（ロマ5：5）を注いで導き続けてくださいます。キリストの愛は永遠です。ですからキリストとの絆もまた永遠なのです。

・生まれながらの人間は先週学んだヘロデ王と妃ヘロデアのように、怒りや憎しみ、復讐心からなかなか解放されません。溜め込んだ負の感情は必ず爆発・暴発します。自分の思い通りになって初めて「気がおさまる」ことを繰り返します。その間にどれほどの罪を犯し続けることでしょう。生まれながらの古い自我、肉なる自分、いつも自分が中心でなければ納得しない頑固さ傲慢さは、キリスト共に十字架で葬られるときに（ロマ6：4）、初めてその力を失います。根っこが絶たれてしまうのです。これはキリスト教の奥義であり、神秘的な聖霊による神の御業です。「私はキリストとともに十字架につけられました。もはや私が生きているのではなく、キリストが私のうちに生きておられるのです」（ガラテヤ2：20）というキリストにある新しい創造、新生の御業がその人の中でスイッチイン、起動しはじめます。キリストのいのちに接ぎ木され、実を結ばぬはずの私たちが実を結ぶようになるのです。なんと感謝なことでしょう。

繰り返しますが、バプテスマは入園式であり、結婚式であり、お葬式です。

3.　バプテスマは天に国籍をもつことです

赤ちゃんが誕生すれば産婦人科で出生証明書を出してもらい、市役所に届け、戸籍簿が作成されます。さらに京都府が管轄する保健所に出生通知票を提出し、こうして事実上の日本国籍が登録され、外国に旅行する場合には外務省が発行する日本国旅券（パスポート）が発行されます。こうした手続きがあるからこそ、日本国憲法で守られた生存と生活の権利が保障されます。驚くことに日本には、今、日本人でありながら無戸籍者が推定１万人もいて、小学校にさえ上がれない児童がいるそうです。彼らは社会から置き去りにされ、埋没してしまっており、深刻な社会問題の一つになっているそうです。

国籍を持つのに、手続きが必要なように、バプテスマにも同じようなことが言えます。そこには３重の円のような重なりがあります。

・目に見える現実的な一つの教会で、メンバーの祝福と祈りの中で洗礼・バプテスマを「父と子と聖霊の名によって受ける」（マタイ28：29）とき、目に見える地域教会のメンバーとなります。その意味ではキリスト教会への「入会式」といえます。これは最初の一重円です。同時にそれは世界中に満ちているすべてのキリスト教会の一メンバーとされ、外国の教会を訪ねても「キリストにある神の家族、兄弟姉妹」として歓迎されます。

・同時に、過去２０００年間にわたってこの地上に存在し、これからも存在し続ける目に見えない普遍的なキリストの教会（公同の教会）の一員とされます。これが二番目の二重円です。歴史を超えてキリストとつながっている神の民の共同体としての教会に所属することになります。ます。教会は本質において「わたし（主イエス）の教会」（マタイ16：18）であり、キリストが「建て上げる」（18）永遠の存在であり、その基盤はいささかも揺るぐことがありません。「天国の鍵が授けられている」（19）と表現されるほど、キリストの教会である共同体には、神から託された統治の権限が与えられています。宇治バプテスト教会の大切なメンバーは同時に、目に見えない普遍的なキリストの教会の一員であり、神の教会に所属するかけがえのないメンバーでもあるのです。

・そして最終的に、キリストが御国の王として再臨される待望の日、神の国がついに完成するときに、神の国の「国民」としての国籍を持つことが約束されています。だからこそ、教会はバプテスマ式と教会籍を大切にしてきました。それは単なる宗教上の一儀式でもなければ、洗礼証明書や教会籍という一枚の紙きれでもありません。永遠のいのちと永遠の神の国と直結する価値を持つほどの尊い聖礼典でもあるのです。ですから地上の目に見える教会においては、信徒が他の教会に移る場合には「教会籍」を大切にお送りさせていただいています。地上の教会は神の国ではありませんが、三重円の中心として神の国にと重ね合わされています。地上の教会は不完全でしみも傷もあります。しかし、それでも神は教会を愛して、キリストの花嫁として迎えようとされています。花嫁である教会は花婿であるキリストと結び合わされ、教会のメンバーは天に国籍を持つ、御国の民とされているのです。

「けれども、私たちの国籍は天にあります。そこから主イエス・キリストが救い主としておいでになるのを、私たちは待ち望んでいます。キリストは、万物をご自身に従わせることのできる御力によって、私たちの卑しいからだを、ご自身の栄光のからだと同じ姿に変えてくださるのです。」（ピリピ3：20-21）

バプテスマは永遠の神の御国の国籍を与えられる幸いな祝福のときです。今年あなたもバプテスマを受けて、目に見える教会と目に見えない公同の教会に属する一人とされ、永遠のキリストの御国に国籍を持つ「神の民」とされませんか。弟子たちへのキリストのことば、そして命令をお聴きください。

「あなたがたは行って、あらゆる国の人々を弟子としなさい。そして父と子と聖霊の
　御名によってバプテスマを授けなさい」（マタイ28：28）

　　目次に戻る