教科書歴史問題 関係資料、各団体声明文、

戦後50年国会決議 村山富市首相談話
  JEA声明 バプテスト連盟声明
 カトリック教会声明 蔦田公義氏論説
7 子どもと教科書全国ネット21事務局声明 子どもと教科書全国ネット21
総括声明文


   戦後50年国会決議   

1995年、自社さきがけの連立政権の下で「歴史を教訓に平和への決意を新たにする決意」(「戦後50年国会決議」)が採択された。

「本院は戦後五十年にあたり、全世界の戦没者および戦争などによる犠牲者に対し、哀悼の誠を捧げる。また世界の近代史上における数々の植民地支配や侵略的行為に思いをいたし、わが国が過去に行なったこうした行為や他国民、とくにアジアの諸国民にあたえた苦痛を認識し、深い反省の念を表明する。われわれは、過去の戦争についての歴史観の相違を越え、歴史の教訓を謙虚に学び、平和な国際社会を築いていかなければならない。本院は、日本国憲法のかかげる恒久平和の理念のもと、世界の国々と手を携えて、人類共生の未来を切り開く決意をここに表明する。右決議する。」


   村山富市内閣総理大臣談話  1995年8月15日

815日、村山首相は閣議決定を経た内閣総理大臣談話を発表した。

「われわれが明記すべきことは、来し方を訪ねて歴史の教訓に学び、未来を望んで、人類社会の平和と反映への路を誤らないことであります。わが国は、遠くない過去の一時期、国策を誤り、戦争への道を歩んで国民を存亡の危機に陥れ、植民地支配と侵略によって、多くの国々、とりわけアジア諸国の人々に対して多大の損害と苦痛を与えました。私は、ここにあらためて痛切な反省の意を表し、心からのお詫びの気持ちを表明いたします」。


  バプテスト連盟 2001年3月30日

歴史を歪曲し皇国史観復権を画策する
              歴史教科書検定に関する要望書

 「新しい歴教科書をつくる会」(会長西尾幹二電気通信大教授、以下「つくる会」)の主導で編集された中学校歴史教科書が文部科学省による修正を経て3月中に検定合格の見通しであると報道されています(「朝日新聞」2月21日)。この「つくる会」は1997年、現行の歴史教科書を「自虐釣」であると誹誇し.皇国史観に基づいた教科書を作り.普及させる目的で結成されたものです。

 この教科書は.昨年4月の検定申請段階では.太平洋戦争をアジア解放を目指した「大東亜戦争」として美化し、韓国併合についても「東アジアを安定させる政策として欧米列強から支持され」「合法的に行われた」と記述して皇国日本によるアジア諸国の植民地化を正当化しています。また.「日本」という国号や「天皇」という称号の成立が歴史的に7世紀半ばまでしか遡ることができないにもかかわらず.「日本」の建国を.神武天皇をはじめとする記紀神話に基礎づけ:天皇中心の国家意識を強儡周しています,そして.検定作業が密室で行われるために定かではありませんが、同時に検定作業中の他の社会科教科書もまた.「従軍慰安婦」ヘの国家関与を不問にし、戦争中の皇軍による加害行為の記述を大幅に減少させ.「南京大虐殺」を「南京事件」と言い換えるなど姑息な記述が多いと伝えられています。

 このような教科書の歴史歪曲を貫く皇国史観は.昨今の野呂田方成衆議院議長の「大東亜戦争l発言.森喜期首相の「日本は天皇中心の神の国」発言.桜肉義雄元衆議院議長の「教育勅語にも良いところがある」発言は言うまでもなく.記紀神話に根ざした建国記念の日制定(1966年)に始まり、度重なる靖国神社国営化の画策(1969年〜1974年)、元号法制化(1979年)、天皇即位・大嘗祭への国家予算支出(1990年)そして、「日の丸・君が代」の国旗・国歌法制化(1999年)とその強制、現在進行中の教育基本法改悪の動きに連なる天皇制国家のイデオロギーです。

 国際化・価値の多様化への反動としてのこのような偏狭な天皇制民族主義、「明治維新」以来の神権天皇制への復古主義は外に向っては侵略戦争を正当化し.現在・将来にわたり東アシアにおける他国との対話を疎外するものであり、内に向っては天皇制の「統合作用」によって差別牡会を助長するものであり、「政教分離原則」を蔑ろにし、市民一人ひとりの「信教の自由」「思想・信条の自由」を奪う危険な動きです。このような歴史的事実の健忘症、独り書がりの「強がり」こそ「自虐的j精神であり.国国際社会における日本の信頼性を貶めるものに他なりません。

 私たち宗教者は「いのち」の尊厳.普遍的原理としての正義と平和の実現を目指す者として.アジア・・太平洋戦争時において天皇制国家主義と対峙できず、結果的に侵略戦争に加担してしまった罪責を告白し、天皇や国家が再び究極的な主となることに抵抗し、教会において真の「歴史」教育を継承していくことを肝に銘じながら、以下のように要望します。

  1)「国が特定の歴史認識、歴史事実を確定するという立場にない』という形式的中立性を装って、「つ くる会」     の教科書を合格させることは欺瞞行為であり.かつて日本が行ったアジア諸国への侵略戦争 によって被害    を受けた人々の苦しみを無視するだけでなく、明かな歴史的事実の歪曲です。それゆえ、この数料書を合     格させないで下さい。

  2)侵格戦争の罪責を認め.賠償を果していくことは「自虐的」どころか、かつて軍靴によって踏みに じったアジ     ア諸国との和解と平和を構築していくのに不可欠でもっとも積極的な行為です。歴史教 育においては「視点    」が重要です。国は、かつての日本のアジアへの侵略戦争への深い反省に立つ歴史教育をする義務がある    ことを自覚して下さい。

日本バプテスト連盟常任理事会  

              2001年3月30日
                内閣官房長官
                 福田康夫様



  日本カトリック正義と平和協議会


文部科学大臣 町村信孝様

2001年3月27日
日本カトリック正義と平和協議会 担当司教 大塚喜直

教科書検定に関する要望書

「新しい歴史教科書をつくる会」(会長 西尾幹二氏、以下「つくる会」)が作成した中学校歴史教科書の申請本が文部科学省の教科書用図書検定にかかっています。

各種の報道によれば、この「つくる会」が上程した申請本は過去の日本の侵略と植民地支配の歴史を肯定し、天皇制支配を讃美するかのような内容を含んでいるといわれます。このような教科書が検定を通過することは、過去に大日本帝国軍隊が行った侵略と蛮行の歴史を隠蔽・歪曲し、また讃美することに繋がります。現在、被害を受けた中国、韓国、シンガポ−ルなど東アジア各地域で、民間と政府両者からこれに対する批判が高まっているのは当然のことであると思います。

加害者が加害の事実を忘れることは簡単かも知れませんが、被害者にとっては受けた痛みを忘れることは容易ではありません。そのためにも、日本国として、歴史に対する誠実さをことばとおこないで表明し、アジア諸国の信頼を獲得することが求められています。そしてアジアの人々とともに平和な世界を築くために、加害者である日本国としては、過去を真摯に見つめ、反省し、二度と再びその過ちを犯さない決意と努力の上に、アジアの国々と連帯し、協力してゆくことが必要です。そのために加害者側の視点に立つことが不可欠であると考えます。

私たちは国家や民族を越えてアジアの連帯を構築することにより、新しい希望に満ちた21世紀を開いてゆきたいと望んでいます。従って「つくる会」の歴史観は、正義、平和、人権を大切にする社会をともに創ろうとしているアジアの人々の願いを踏みにじるもので、その歴史観によって歪曲された教科書を私たちはとうてい認めることができません。したがって、このような教科書を合格と認定しないよう強く要請いたします。 


  クリスチャン新聞論説  「教科書検定問題の重い問い」 蔦田公義師  2001年4月22日

4月3日、「新しい歴史教科書をつくる会」(通称「つくる会」)の主導による中学歴史教科書が検定を合格したことが公表された。「つくる会」の主張は、現行の歴史教科書は「自虐史観に基づく」と批判して歴史教科書を一新することにある。その表れの例は、申請段階から「慰安婦」の記述を落としたり、「南京虐殺事件」を「南京事件」と改称することなどに見られる。

この検定に関しては国内外を問わず多くの心ある人々が注視してきた。近隣のアジア諸国からは重ねて懸念が提示されている。3月末には日本キリスト協議会(NCC)と日本カトリック正義と平和協議会の代表が文部科学省を訪れ、「つくる会」の教科書を合格としないよう申し入れた。検定結果が公表されると、即座に中国、韓国から強い非難と抗議の声が上がり、その後なおエスカレ−トしていることも理解できる。

本誌3月18日付けには、ソウル日本人教会の吉田耕三牧師と、韓国のクリスチャン議員・金泳鎮氏の、この問題に関する懇願とも言える真摯な訴えが掲載された。両氏を通して伝えられた韓国市民の声である。注目点はそれがキリスト者と非キリスト者の境なしの共通の抗議の声であることだ。筆者も長きにわたるアジアとの交流の中で、アジア諸国民の心に触れつつ、複雑な思いを持つ。神の国の市民同士という関係では十字架による赦しと和解という現実がある。しかし、その事実が明瞭になればなるほど、地上のそれぞれの国の市民同士として背負っている暗く重いものの現実が、認識されてくる。

1989年12月に開かれた第1回韓中日教会指導者会議の席上、日本側から真実な謝罪のことばが述べられた。韓国側から応答のことばが出されるのには「間」があった。やがて、韓国教会の代表が口を開き、「じつは」と、心に封じられていた「本音」を吐露し始めた。産みの苦しみのような重く苦しいひとときが続いた。しかしやがて、主の血潮ゆえにと、赦しの言葉が述べられ、さらには韓国側から謝罪の言葉さえ述べられのである。主にある和解が実現した瞬間であった。以来、日本と韓国の両福音同盟の一致と協力の積み重ねが継続している。

神の国の恵みの現実はある。お互いを地上の市民と見ての現実もある。そしてそれは「負の遺産」を含むのである。さて、それでは「負の負債」を含む日本の日本の歴史を、日本人、ことに日本のキリスト者、日本の教会として、どのように理解し、どのように対応することが正しいのであろうか。これが問われるのである。事実との直面を避ける道もある。「いいではないか。過去は過去。許してもらって忘れ去る。現在は現在、未来は未来なのだから」と。日本人的な発想かも知れない。確かに、日本に対して「謝罪はもうよい」という人々もいなくはない。しかし、ここで日本の教会にとって、歴史観、歴史理解に関する問いが投げかけられている。安易に「今は恵みの時代。ましてや前世代のことで自分には無関係」と片づけてよいのだろうか。

聖書に見る神の民は旧新約を通じて「歴史を負う民」、言うならば、父らの罪を負ってバビロンに行ったのである。それは旧約聖書時代は恵みと赦しのみ、という向きもあるかもしれない。しかし、忘れてならないのは「赦し」の前に、「認罪」があることである。赦罪は、重たい「悔い改め・謝罪」に基づき、それはさらに重たい「十字架」に基づくものである。

昨年秋に幕張で開催された日韓の会合で、「和解」を踏まえた上で、韓国の教会指導者から「日本の教会が、何とか政府に働きかけ、謝罪と真の和解の道を開く努力をしてほしい」との要望が出された。それが民の心の声なのである。「正義は国を高め、罪は国民をはずかしめる」  一つの問いが投げかけられている。 


  こどもと教科書全国ネット21と12団体共同声明

       [アピール]憲法否定・国際孤立の道へ踏み込む教科書を子どもたちに渡してはならない

(一)
 国内外で問題とされてきた「新しい歴史教科書をつくる会」メンバーの編集執筆による中学歴史・公民分野教科書の検定合格が明らかとなり、採択に供されることになりました。検定によって一部修正が行われたとはいえ、この教科書の全体をつらぬく基本姿勢は本質的に変わっていません。

第1に、アジア太平洋戦争を「大東亜戦争」とよび、それが侵略戦争だったことを認めず、アジア解放のために役立った戦争として美化し肯定する立場がつらぬかれています。韓国併合・植民地支配への反省はなく、むしろ正当化する考えは残っています。「従軍慰安婦」の事実は無視し、南京大虐殺についても否定論の立場を一方的に記述しています。

第2に、神話をあたかも史実であるかのように描いた記述については、一部の字句修正がおこなわれたとはいえ、「神武天皇東征」の地図をそのまま掲載するなど、内容・分量ともほとんど変化がありません。

第3に、日本の歴史を天皇の権威が一貫して存在していたかのように描き出し、一方ではアジア諸国の歴史を根拠もなく侮蔑的に描き、その上に立って国際的に通用しない偏狭な日本国家への誇りを植えつけようとしている点も、検定意見すらつけられなかった部分が多く、ほとんど変化がみられません。

第4に、第2次大戦後に廃止・失効となった旧大日本帝国憲法や教育勅語を礼讚する記述は変わらず、大日本帝国憲法のもとでいかに人権が抑圧されたかについての記述はみられません。

第5に、日本国憲法第9条「改正」論を基調に、国防の義務、国家への奉仕を強調する記述も変わっていません。

戦後の歴史学や歴史教育は、戦争遂行に歴史教育が利用されてきたことへの反省をふまえ、科学的に明らかにされた歴史事実を何よりも重んじてきました。ところが「つくる会」の教科書は、今日の世界の動向を無視して国際緊張を過大に描き出し、歴史事実を歪めて戦争を美化し、国家への誇り、国家への奉仕、国防の義務を強調しています。これは、子ども・国民をこれからの戦争に動員することをねらうものです。「つくる会」側が若干の修正に応じたのは、ともかくこれを教科書として採択の市場に出すことを優先し、それが採択されたならば、次にはより鮮明にかれらの主張を打ち出したいっそう危険な教科書を発行しようとの戦術にほかなりません。「新しい歴史教科書をつくる会」の本来のねらいの危険性が、若干の教科書記述の修正で消え去るものではないことを強調しておかなければなりません。

戦争への痛切な反省から生まれた日本国憲法の理念をこのように敵視する教科書が公教育の場に登場するのは戦後はじめてのことであり、公教育として許されないことです。時あたかも日本を戦争参加にみちびく新ガイドライン関連法が成立し、改憲をめざすうごきが本格化するなかで、このような改憲のすすめともいうべき教科書が登場したことは、21世紀の日本を左右する重大な問題がその根底にあることを示しています。

(二)
 そもそも日本国憲法は、日本がふたたび侵略戦争はしないという国際的宣言であり、国際公約でもあることを想い起こす必要があります。また、1982年に教科書検定による侵略の事実の隠蔽にたいしておこったアジア諸国からの抗議を契機に、教科書検定基準に「近隣のアジア諸国との間の近現代史の歴史的事象の扱いに国際理解と国際協調の見地から配慮がなされていること」という条項が政府によって付け加えられたことも、忘れてはなりません。さらに最近では1995年の村山首相談話で、アジア諸国に与えた「多大の損害と苦痛」にたいしお詫びと反省を表明しました。1998年の日韓共同宣言でも、「両国民、特に若い世代が歴史への認識を深めることが重要」と表明しています。これらの言明は日本政府の明確な国際公約です。しかもその考え方は、侵略戦争を否定し諸民族の平等と平和を重んじてきた第二次大戦後の世界の潮流に照らしても当然のことです。日本政府はこのような国際公約を守る当然の義務があります。

ところが「つくる会」の教科書は、こうした日本政府がこれまで公式に表明してきた国際公約に明らかに違反する内容を含んでいます。こうした重大な問題に関し、諸外国の政府・国民が日本政府の対応について意見を述べるのは当然であり、政府としても真摯な対応が求められるところです。これを内政干渉ということはできないことは、外務省自身が国会でも正式に答弁しているところです。

このような日本国憲法否定・国際公約違反の教科書が出現したことについては、日本政府の責任は重大です。
 第1に、教科書検定制度を廃止するならばともかく、文部科学大臣が検定権限をもつ検定制度を維持している以上、検定合格がその教科書を教室で使用することを公的に承認する結果となることは、なんびとも否定できないからです。そうである以上、政府の責任は免れることができません。

第2に、このような教科書を検定に合格させ、採択させるために、全国的な政治活動をこの間展開してきたのは、ほかならぬ政府与党の政治家です。さらに既存の教科書から「従軍慰安婦」の記述や「侵略」の用語を削除させるべく、さまざまな政治的圧力をかけ、「自主規制」の名のもとに事実上の強制を行ったのは、政府・文部科学省であり、現文部科学大臣をふくむ政府与党の政治家です。この点での政府の責任はなおいっそう重大です。政府がこのような責任に頬かむりすることは許されません。

ところが、政府与党の人々はアジア諸国からの批判を内政干渉などと騒ぎ立てて、事実上、国際公約破棄を公然と叫んでいます。これを政府が明確に否定しないのであれば、日本は国際的に孤立の道を歩む過ちを繰り返すことになるでしょう。私たちはひきつづき、このような政府の責任をきびしく追及する決意です。

(三)
私たちは、日本国憲法を否定し国際孤立の道へ踏み込む危険な教科書が、子どもたちの手に渡されることを許すことはできません。危険な教科書が検定に合格したいま、各地域でこの教科書を採択させないよう声をあげ、関係機関への働きかけを強めましょう。それによって、日本国民の良識を世界にむかって示そうではありませんか。また、既存の教科書の侵略加害と植民地支配に関する記述が大きく後退した問題について、その真相と責任を明らかにし、アジア諸国と共通の歴史認識をもてるよう、教科書記述の充実改善を求め、実現させようではありませんか。

2001年4月3日

「教科書に真実と自由を」連絡会   子どもと教科書全国ネット21
社会科教科書懇談会世話人会   「戦争と女性への暴力」日本ネットワーク
全国民主主義教育研究会      高嶋教科書訴訟を支援する会
地理教育研究会          日本出版労働組合連合会
日本の戦争責任資料センター    ピースボート
歴史教育者協議会         歴史の事実を視つめる会
連絡先:子どもと教科書全国ネット21


  子どもと教科書全国ネット21 常任運営委員会

〔声明〕「つくる会」教科書の国・市区町村立中学校採択ゼロは市民の良識の勝利です
    2001年8月16日 子どもと教科書全国ネット21常任運営委員会

2002年度用教科書の採択が全て終わりました。

日本の侵略戦争を肯定・美化、植民地支配を正当化、日本の戦争犯罪を否定、天皇中心の歴史観を植えつけるなど歴史を歪曲する歴史教科書。自衛隊を讃美し集団的自衛権の発動を主張、基本的人権よりも国益や国家秩序の優先、核廃絶を否定する公民教科書。このような多くの問題点をもった憲法・教育基本法違反の教科書、日本を国際的な孤立に導き、再び「戦争ができる国」をめざす新しい歴史教科書をつくる会(「つくる会」)の歴史・公民教科書(扶桑社版)は、公立中学校の採択地区では一地区も採択されなかったことが明らかになりました。

残念ながら、異常な政治的思惑によって東京都と愛媛県の教育委員会が養護学校・ろう学校用として採択し、いくつかの私立中学校でも採択されています(現在判明分は歴史・公民6校、公民2校)が、「つくる会」が目標にしてきた採択率10%(約13万冊)どころか、全体で5000冊(約0・4%)をはるかに下回るものと思われます。「つくる会」は、自分たちの教科書を不当な圧力をもって検定に合格させ、これを多くの地域・学校で採択させるために、自民党などの国会・地方議会議員や財界のバックアップをうけ、右派組織を総結集した「統一戦線組織」(教科書改善連絡協議会)をつくって活動してきました。「つくる会」などは、教科書採択から教師の意見を排除することをめざして、採択制度の改悪を画策してきました。そのために、汚職議員をはじめとした政治家の不当な圧力、違反・違法な宣伝活動など、憲法・教育基本法、独占禁止法などを無視した、なりふりかまわない活動を展開してきました。こうした圧力によって、文部科学省や少なくない都道府県教育委員会が採択制度の改悪に動きました。

こうして豊富な資金と政治家の力を総動員した執拗な取り組みにもかかわらず、「つくる会」教科書が公立中学校で一地区も採択されず、私立中学校・養護学校を含めてもごくわずかしか採択されなかったのは、この教科書を「子どもに渡してはならない」「教室に持ち込ませてはならない」という、保護者、市民、教師、学者・研究者をはじめとした日本に住む多くの人びとの活動によって、全国的にも地域的にも「つくる会」教科書に反対する大きな世論がつくられたからです。この採択結果はこうした人びとの良識の勝利、民主主義の勝利だといえます。

日本政府は、「つくる会」教科書を検定に合格させたことで、韓国・中国はじめアジア諸国・地域から激しい批判と不信感を招いています。「つくる会」教科書の不採択という結果は、日本政府と国民は同じではない、日本人の多数は歴史の歪曲に反対であり、アジアとの友好・共生を求めているということを示すことになり、政府が失った信頼を市民がかろうじてつなぎとめた結果になったといえます。「つくる会」教科書を不採択にするために、日夜、全力をあげて活動されてきた全ての皆さんに、心からの感謝と敬意を表明するとともに、この成果についてお互いに喜びあいたいと思います。

「つくる会」教科書を不採択にするために、「教科書ネット21」の「地域ネット」をはじめ、全都道府県に教科書問題の市民組織がつくられ、様々な市民組織、研究団体、宗教団体、教職員組合や労働組合などと協力して活動しました。この7ヶ月間に全国各地で1000箇所を超える学習会・講演会などが開催され、12団体による「つくる会」教科書批判のアピールへの賛同署名や教育委員会に不採択を要請する署名、新聞意見広告、地方議会や教育委員会の傍聴、「人間のくさり」などが取り組まれました。また、私たちが作成したチラシをはじめ、採択地区ごとに独自のチラシが沢山つくられ配布されました。私たちが作成した10円パンフレット「これがあぶない教科書だ!」は短期間で25万部が活用されました。歴史学者・研究者や研究団体が「つくる会」教科書の多くの誤りを明らかにしたこと、欧米の多数の学者・研究者による「つくる会」教科書批判のアピールなども大きな力になりました。このような全国各地の「草の根の民主主義運動」が圧倒的な力関係を変え、今回の大きな成果に結びついたと確信します。

また、今回の教科書問題は、アジアの市民と連帯して取り組まれたことも、これまでにない大きな特徴でした。これは、今後のアジアとの友好・共生をめざす活動にとって大きな足がかりとなるものだといえます。「つくる会」側は、「特定の政治目的をもった団体が常軌を逸した抗議行動を展開」「異常な妨害行動」によって不採択になったかのように主張し、自民党や文部科学省は市民運動を敵視し、その活動を規制しようとしました。しかし、子どもたちに憲法違反の教科書を渡してはならないという活動、教育委員会など採択関係者への働きかけは、憲法で保障された権利であり、「不当」でも「異常」でもありません。繰り返しますが、「つくる会」教科書がわずかな採択となったのは、市民の良識が示されたものであり、非民主的な制度でありますが、多くの採択関係者が「つくる会」の教科書は使えないと判断した結果なのです。また、圧倒的多数の私立中学校や養護学校教科書に関する道府県教育委員会が「つくる会」教科書は「ふさわしくない」と判断した結果でもあります。それだけに、東京都と愛媛県教育委員会の採択の異常性が際立ったといえます。

私たちは、養護学校での採択変更などの活動に引き続き取り組むとともに、この成果と教訓に学びながら、大きく高まった教科書に対する関心をいっそう発展させ、日本の教科書制度と教科書内容を改善するための活動を具体化します。そのため、全国各地の市民運動のネットワーク化、教科書や歴史学習活動の定着、子どもたちや保護者の声をよく聞いて学校単位・教師単位に採択ができる制度の実現、検定制度の抜本的な改革、政府の圧力と「自主規制」によって改悪された歴史教科書の改善などに取り組みます。そして、このような歴史の歪曲が繰り返されないようにするために、歴史教育アジアネットワークをつくり、韓国をはじめアジアの市民・研究者と協力して共通歴史副読本づくり、国際的な教科書シンポジウムの開催などに取り組みます。

こうした活動をすすめるために、今回つくられ広がった様々な市民組織や団体との友好・協力共同をいっそう発展させていきます。                     以 上 

子どもと教科書全国ネット21
代表委員:尾山宏・君島和彦・田港朝昭・暉峻淑子・西野瑠美子・藤本義一・山住正巳・渡辺和恵


        
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