十六節を原語聖書もしくは英語聖書において見よ。それは左のごとく三つの成文（センテンス）より成り立つてゐるのである。

　

　　　相互に志（おもい）を同じゅうせよ

　　　高き思いをなさず、かえつて低きにつけよ

　　　みずからを賢しとするなかれ

　

　そしてこれは別々の�ﾍえではなく、互いに相關連せる誡めである。「相互に意を同じゅうせよ」を解して、「相互に對する關係において調和的なれ」となす人があり（サンデー）、また「おのおのが他と同じ思いおよび努力を持つところの、愛の調和を意味す」となす人もある（マイヤー）。異体同心ともいうべき、信者間におけるうるわしき靈的一致を勧めた語である。しかしてこの一致を妨ぐるものは、各自のいだく尊大の心である。高き位置を望む野心である。ゆえに第二の誡めとなつたのである。「高き思いをなさず」は、高き事を思うなかれ、高き地位を望むなかれの意である。これ�ﾍ会内において高位にのぼり、または名譽ある職につかんとの野心を誡めた語である。次に「かえつて低きにつけよ」という。微賤低卑と思われおる地位あるいは仕事に從えよとの意である。すなわち�ﾍ会内において好んで低き地位につき、微賤なる仕事に從えという誡めである。人々が高きを望んで低きを避ける時は、とうてい�ﾍ会内に靈的一致は起こらない。これに反して、各自が低きを望んで高きを避くる時は、謙譲の實はおのずから信者間の一致をひき起こすのである。一致は謙遜を伴い、謙遜は一致を生む。これをロマ書十二章十六節が説き、またピリピ書二章前半が説く。後者の第二節にいう、「なんじら、思いを同じゅうし、愛心を同じゅうし、心を合わせて思う事を一つにし、わが喜びを滿たしめよ」と。そして三節後半において「おのおの、へりくだりたる心をもて、互いに人をおのれにまされりとせよ」といい、以下、イエスのへりくだりの例を引き來たつて、人々に謙遜を勧めてゐる。平和一致は、信者間の關係において最もたいせつなるものである。そしてこれの實現は各自の謙遜によつて成る。人々が他をおのれにまされりとし、他を尊敬し他を推重する態度に出づれば、自然と平和一致が生まれる。ゆえに高きを願わずして低きにつくことを念となし、もつて信者間の平和實現を計るべきである。

　高きを思わず低きにつけよとは、普通道�ｺとしても貴き�ﾍえである。人はたれもかくありたきものである。今や世の人がいずれも高きを競いつつありて、それがため嫉妬、紛争、擾亂（じょうらん）の絶えざるはなげかわしきことである。さりながら、クリスチャンはこれを學んではならぬ。クリスチャンは低きにつくをもつて常の心がけとせねばならぬ。�~は人類を救わんとするにあたつて、そのひとり子を低き人の形としてくだした。しかもローマ世界の片いなかたるユダヤ國に、ユダヤ國の片いなかたるナザレ村にくだした。�~のひとり子たる彼は「�~の形にておりしかども、みずから�~とひとしくあるところの事を捨てがたきことと思わず、かえつておのれをむなしゅうし、しもべの形をとりて人のごとくなつた。父なる�~のなすところ、また子なる�~のなすところ、すでにかくのごとくである。さらばキリスト・イエスの心をもつて心とすべきクリスチャンたるものは、よろしくこの態度を學ばねばならぬ。高きにつくは、信仰の衰えたる時のことである。信仰の盛んなる時、すなわち比較的キリストに近くある時は、低きにつくをもつて喜びとすること、當然である。

　註解者の中には、この語を解して「高き處に目を着けず、低き人と共にせよ」というぐらいに取る人がある。ゴーデーのごときはその一人である。當時、�ﾍ会の堕落ようやくきざして、会員のうち、いたずらに�ﾍ会内の高位を望む人があつた。パウロはこれを誡めて、高き地位に目をつけず低き人と共にせよと勧めたのであろう。高き地位を貴び、高貴の人に近づくを望み、卑賤微小なる人に遠ざかるごとき態度を取るは信仰の低落である。クリスチャンは常に高き地位を思わず低き人の友でなくてはならぬ。使徒ヤコブが信者を誡めて、「もし人、金の指環をはめ、うるわしき衣服を着て、なんじらの会堂に來たり、また貧しき人、汚れたる衣服を着て來たらんに、なんじら、うるわしき衣服を着たる人を顧みて、なんじ、この良き處にすわれといい、また貧しき者に、なんじ、かしこに立てといい、あるいはわが足下にすわれといわば、なんじらはおのおの人のうち差別を立て、また惡しき思いをもて人を分かつ者にあらずや」（ヤコブ書二・二 〜 四）と述べたるを見よ。初代�ﾍ会が早くすでにこの弊風を生みて、信仰衰頽（すいたい）の兆を示したるは歎ずべきことである。信仰の健全なるところ、必ず高きは望まれずして低きが思われるのである。

　平和の道はこのへりくだりの心よりおこなわれる。この心あれば、不和の生まるる餘地はない。争いの起こるは、人々が上へ上へと頭をもたげんとするからである。下へ下へと低きにつかんとするところ、いかで争いの起こる餘地があろうか。われらはこの心をもつて不斷の心となし、もつて平和の實現を計るべきである。

　第三の誡めは、「自己を賢しとするなかれ」である。これ箴言三章七節にある「みずから見て賢しとするなかれ」を引用せしものである。しかし、もちろん無意味にこの句を引用したのではない。この場合に適切なる誡めとして擧げたのである。今、箴言において、この句をその前後の語とあわせしるすに、左のごとくである。

　

　　なんじ、心をつくしてエホバによりたのめ。

　　おのれの知識によることなかれ。なんじ、

　　すべての道においてエホバを認めよ。

　　さらばなんじの道を直くしたもうべし。

　　みずから見て賢しとするなかれ。

　　エホバをおそれて惡を離れよ

すなわち�~にたよらずして自己を過信することを誡めたのである。そして�~を信ずる者の中にも、往々にしてあまり自己を信じ過ぎるものがある。これをパウロは誡めたのである。かえつて信仰の強しといわるる人の中にこの種の人がある。自己の判斷をもつて絶對の正となし、これを�~の聖意と誤信して、他人がこれに從わんことを求め、これに從わざる場合には、その人をもつて�~の聖意にそむく者 − クリスチャンとして不純なる者 − と考うる人がある。「たれかおのれのあやまちを知り得んや」（詩篇十九・十二）。たれか自己をもつて常に賢しとなし得んや。たれか自己をもつて常に正しとなし得んや。われらよろしくへりくだりて相推奨すべきである。

　兄弟姉妹間の協同一致の實を破るものは、この自己を賢しとする心である。おのれの判斷を絶對の眞として他に譲らざるの態度である。�ｉｹの根本義については、何が實であり何が虚であるかは、聖書の明示するところである。しかし人生の實際問題については、一定せる規定を立てがたきものである。人々思うところを異にすること當然である。從つてかかる際は交譲の美�ｺをもつて事を定めねばならぬ。おのおの自己の處見をのみ正しとせば、歸着するところを知らず、また互いにさばくこととなりて、忌まわしき不和、紛争、分裂を引き起こし、百害ありて一利ない。われの思うところと彼の思うところと一致せざる場合、いずれが正しきかは、ただ�~のみ知りたもうところである。クリスチャンは常に�~の聖意を探りて、これをおこなわんことを心がくるを要す。しかしてわれも信者であり彼も信者であつて、われと彼との思いの一致せざる場合は、いずれをもつて�~の聖旨と定めようか。この際、われらはよろしく謙遜でなくてはならぬ。あまりに自信があり過ぎてはならぬ。あるいは彼の思うところが正で、われの思うところが誤りであるかも知れぬ。ゆえに、深くみずから考察して、彼の意見をもまた充分に參酌（しんしゃく）し、自己の意見について幾度も省み、また兄弟姉妹各自の思うところをも參酌して、最後の決定に到着せんと努めねばならぬ。これ決してなまぬるき妥協を好むのではない。謙遜と愛との生む當然の態度である。ああ人たれかおのれの正しきを知り得んや。われらはよろしく自己についてある程度までの自己不信をいだくべきである。そして愛のためには喜んで自己を拾つる心をいだくべきである。自己を賢しとする態度は、愛の一致にとつて最大の妨害物である。

　宗�ﾍ的に偉大なる人は決して自信の強い人ではない。いな、かえつて自己不信に強き人であつた。モーセはエホバに召されてイスラエル救出の大業に從わしめられんとするや、とうていおのれのその器（うつわ）にあらざるを思いて、種々の申しわけを作りて、ひたすら召命に應ぜざらんとした。そしてエホバがいかにさとすも、頑（がん）としてそれに應じなかつた。「わが主よ、願わくは、つかわすべき者をつかわしたまえ」といいて、あくまで自己の不適任をいい張つた。エホバついに憤りを發するに至つて、モーセはやむなく立つに至つたのである。事は出エジプト記三、四章に�燕ﾗにしるされてゐる。イザヤ、エレミヤらもまた自己の不適任を認めしも、エホバの強（し）うるところとなつて、やむを得ず立つたのである（イザヤ書六章、エレミヤ書一章參照）。またルーテルの宗�ﾍ改革のごとき、決して自己に力ありとなして企てた事でなく、やむを得ずして立ちし結果が、圖らずして宗�ﾍ改革という大事業にまで進展したのである。自己不信の人、へりくだれる人、いよいよ立つまでには長き躊躇（ちゅうちょ）を經驗せる人、かかる人が宗�ﾍ的偉人である。かの、いたずらに自己の信ずるところに強烈頑固にして、他の人の思いをことごとく排し、もつてわれひとり聖意を得たりとせる輩のごときは、一種の妄想者にして、宗�ﾍ的小人というべきものである。われら、キリストの心にならわんとせば、よろしく自己不信と謙遜とをもつて相推譲し、もつて平和の道を全うすべきである。

　

　十六節の含む三つの誡めは上述のごとくである。これを心に留めてこれをおこなわんと努むるところ、平和と愛とはみなぎるのである。かくて、無益なる争い、愚かしき分裂、および幾多の紛議や不快は起こらずしてすむのである。

　

　十六節までは兄弟姉妹に對する道、十七節からは不信者に對する道である。十七節の初めにいう、「惡をもて惡に報ゆるなかれ」と。これ敵を愛する道である。ゆえにこれは十九節以下の愛敵の�ﾍえと合わせて見るべきである。次にはいう、「人々の善しとするところを心に留めてこれをなし、なし得べきところは力をつくして人々とむつみ親しむべし」（十七後半と十八）と。これ不信者に對する道としてすこぶる適切なる�ﾍえである。

　不信者のなすところ、思うところ、信ずるところを徹頭徹尾否認して、信者のみ正しとなすは、狂信者流のことである。かかる謬想（びゅうそう）に捕われしため、狭量頑執非禮となりて、對社会の關係においていたずらに紛亂におちいり、あるいはこれがために苦惱し、あるいは迫害に会えりとて、得意とする者がある。これ誤れるのはなはだしきものである。クリスチャンは平和の民でなくてはならぬ。なるべく紛争を避けるよう心がけねばならぬ。やむを得ずば、世にそむき人と争う。しかし、できるかぎりは他にも善きところを發見して、これを取りこれをおこのうよう努むべきである。争いのために争う奇矯（ききょう）の徒となつてはならぬ。武士道にも、儒�ﾍにも、佛�ﾍにも、またこの世の道�ｺ習慣にも良きところがある。強（し）いてこれに反對して争う必要はない。人々の善しとするところには何かの意味があるに相違ない。もちろん人々の善しとするところが明白にキリストの�拐~にそむいてゐるときは、これを取ることはできない。しかしそうでないかぎりは、すなわち主にそむかざるかぎりは、世人の善しとするところはおこのうべきである。おこなつて何かの益ある時はもちろん、おこなつてべつに害のない場合にも、世人のおこなうところに從うべきである。クリスチャンは小問題について世と争うべきではない。根本問題にあらざるかぎり、枝葉問題については、主にそむかざるかぎり、世と行動を共にしてよろしい。いな、共にする方がよろしいのである。他に争うべき重大な問題がある。争うべき重大な場合がある。いずれでも良き事については世に從え。そして�於ﾍの勞費、無益の衝突を避けよ。すなわち「なし得べきところは、力をつくして人々とむつみ親しむべし」である。

　パウロはこの事を人に勧め、またみずから實行した。彼は熱心なる信者ではあつたが、狭量頑固奇矯なる狂信家ではなかつた。彼に廣い心があつた。彼に深い思慮があつた。彼に�ﾍ養ある紳士の品位と餘裕とがあつた。コリント�ﾍ会の姉妹たちの間に、社会の風習にそむいて、男子と同じ位置におのれを置かんとする風のあつた時、彼はそれを誡めて、彼らをしてあくまで當時の婦人道�ｺを守らしめようとした（コリント前書九章）。純粹の理論からいえば、女子になお多くの権を認め得るかも知れぬ。また當時の婦人の習慣がべつに良いものというほどでなかつたかも知れぬ。しかし、かかる事においては、社会の風習に從いて、無益なる紛議を避くべきである。できるかぎりは世人ともむつみ親しむべきである。ゆえにこそ、彼はかく誡めたのである。また彼はユダヤ人の社会にありてはユダヤ人のごとくおこない、ギリシャ人の間にありてはギリシャ人の風俗習慣のままにおこなつた。これは「さらに多くの人を得ん」という大目的があつたため、より小なる事については世に從いて、「みずからおのれをすべての人の奴隷とな」したのである。「いかにもして彼ら數人を救わん」との高き心ありしために、より小なる事については、「またすべての人には、われそのすべての人のさまに從えり」という態度を取つたのである。

　パウロのこの心は今またわれらの心とならねばならぬ。愛のためには、できるかぎりは世の人とむつみ親しまねばならぬ。平和を愛する人、心の廣き人、他に對して相當の敬意をもつ人、これ實にキリストにある人である。この心をもつてクリスチャンはこの世の生涯を営むべきである。

　クリスチャンはできるかぎり世に從う。しかし世に降（くだ）るのではない。根本問題においては、いかでこの世に降り得よう。主にある以上、いかでこの世の人と全く同じきを得よう。できるかぎりは世と共たらんと努むるも、心においてはこの世の人との間に天地の差があるべきである。ゆえに、この世の人は往々にしてクリスチャンを敵となして迫害し來たる。かかる場合はいかにすべきか。かかる場合もまた愛をもつてせよ。愛をもつて憎みに勝てよと。これ十九節以下の�ﾍえである。

　

　

第五十一講　約　　　説

謙譲と宏量（十二章十六 〜 十七節）

　

　　第十六節「なんじら、高きを思わず、かえつて低きにつけよ」。豫言者エレミヤ、その弟子バルクに告げていわく、「なんじ、おのれのために大いなる事を求むるか。これを求むるなかれ」（エレミヤ書四五・五）と。信者に聖なる野心（holy ambition）なかるべからずといえども、その野心たる、�~に仕えんとの野心であれば、世のいわゆる大志をいだくというとは正反對の野心である。しかしてすべて謙遜なる人は、なし得るかぎり、人の譽（ほまれ）を引くがごとき大事を避けて、小事をもつて滿足せんとする。しかして幸�ｂﾈる道は常に高きをねらわずして低きにつくにある。詩人ハイネいえるあり、いわく、「なんじの蝸盧（かろ）をば谷に造れよ。山巓（さんてん）においてするなかれ」（Baue dein Huttchen im Thal, und nicht auf dem Gipfel)と。人の目につかざる處、名譽と地位との伴わざる處、人の足を洗う處、そこに�~はいまし、そこにほんとうの幸�ｂｪある。上流社会と稱して、位階または勲章、財産または學位の誇りとせらるる處には、虚僞があり虚榮がある。イエスと同じく、身を中流以下に置いて、最大多數と苦樂を共にする處に、人生最大の幸�ｂｪある。イエスは、人をしてこの幸�ｂﾉあずからしめたまわんとて、かのマタイ傳十一章二十八節以下の慰安のことばを發したもうたのである。「すべて疲れたる者、また重きを負える者はわれに來たれ。われ、なんじらを休ません。われは、心柔和にして、へりくだる者なれば、わがくびきを負いて、われに學べ。なんじら、心に平安（やすき）を獲（う）べし。そは、わがくびきは易（やす）く、わが荷は輕ければなり」と。板倉勝重が、その子重宗の京都處司代職に任命せられしを祝しかつ誡めんとて、わざわざ江戸より京都まで、大長持の内に収めて、からかさ一本を送りしという美談の意味は、「上を見るな、下を見よ」というにあつた。高位高官の人が会員となりたればとて特に喜ぶ�ﾍ会、この世の富豪または政治家の援助を借りて�ﾍ勢拡張に從事する近代式米國流のキリスト信者、�~學博士の學位にあこがれて、これを獲んとて運動し、獲たりとて祝賀会を開く�~學者と牧師と傳道師、われこそは義人なりと思いて自己の義にたよる古今のパリサイ人、われこそは清潔の男女なりととなえて、人のあやまちにおちゐるを見て、彼の汚れにくらべておのれの清きを祝するいわゆる清潔のともがら、地位の高ぶり、知識の高ぶり、正義の高ぶり、信仰の高ぶり、いずれも�~の前に價いと卑しきものである。「なんじら、高きを思わず、かえつて低きにつけよ」。簡單にして明瞭、深い眞理のことばである。社会には無きにひとしき者としてさげすまれ、�ﾍ会には異端變人としてしりぞけられ、義人と清潔のともがらとには汚れの人として避けらるるところに、そこにほんとうの喜びと幸�ｂﾆ、人のすべて思うところに過ぐる平安がある。

　第十七節「人々の善しとするところは、心に留めて、これをなすべし」。「十目の見るところ、十指の指すところ」という。「民衆の聲は�~の聲なり」、Vox populi est vox Dei. 世論を重んぜよとの意である。パウロは他の處においていうた、「兄弟よ、われ終わりにこれをいわん。おおよそ眞實（まこと）なること、おおよそ敬うべきこと、おおよそ正しきこと、おおよそ潔（いきぎよ）きこと、おおよそ愛すべきこと、おおよそ善きほまれあること、すべていかなる�ｺ、いかなるほまれにても、なんじらこれを思うべし」（ピリピ書四・八）と。パウロはほんとうのクリスチャンでありしがゆえに、廣い人であつた。彼はその出處によつて善惡を定めなかつた。善は何びとによつて唱えられても善、たとえ不信者道�ｺなればとて、道�ｺは道�ｺである。佛�ﾍにも善きところがあればこれを取れ。儒�ﾍにも敬うべきところがあればこれに從え。武士道に尊むべきところが多い。日本のクリスチャンが武士道を離るる時に、聖書の明白なる�ﾍ訓にもとる、のである。「金銭を愛するは諸惡の根なり」（テモテ前書六・一〇）とは聖書の�ﾍうるところ、しかしてこれまた武士道の�拐~である。金銭を愛して、われらは聖書にそむき武士道にもとるのである。パウロもまたいうた、「わが誇るところを人にむなしくせられんよりは、むしろ死ぬるはわれに善きことなり」（コリント前書九・十五）と。すなわち死は恥辱にまさるとのことである。卑しき米國宣�ﾍ師の給するパンを食わんよりは、むしろ餓死するはわれに善きことなりである。その他、もし日本のクリスチャンが、宣�ﾍ師の説�ﾍを聞く前に、武士道の明訓に耳を傾けしならば、彼らの傳道は數十倍の成功を見たであろう。「人々の善しとするところは、心に留めて、これをなすべし。」ありがたい�ﾍ訓（おしえ）である。外國宣�ﾍ師の傳えたいわゆるキリスト�ﾍの�ﾍうるところのほかは不信者道�ｺにして、頼むに足らずと思うわが國多數のいわゆるキリスト信者は、パウロのこのことばを心に留めて、これをなすべしである。正直なること、公平なること、勇敢なること、独立なること、世におもねらざること、権者にへつらわざること、自己の信念に忠實なること、逃ぐる敵を追わざること、公明正大なること、すべて正直なる信仰はわが信仰と異なるといえどもこれを尊重すること、その他、枚擧するにいとまがない。これらは特別にキリスト�ﾍ道�ｺにあらずとするも、クリスチャンたる者はすべてこれを思い、心に留めて、これをおこのうべしである。まことにクリスチャンは、�ﾍ会には變人として見らるるも、常識の世界には常人と認めらるべきである。「なんじら、異邦人の中にありて善行をなすべし。これ、なんじらをそしりて惡をおこなう者といえる彼らをして、なんじらの善行を見て、�~をあがめしめんためなり」（ペテロ前書一・三）とあるがごとし。�~に逆らう世人といえども、善は善として認めざるを得ざる時が來る。