アブラハムは神様に呼び出され、生まれ故郷を出て神の示す地に旅立ちまし た。天幕を張り砂埃が巻き上がるパレスチナの荒れ野を旅していました。自分の
家族、家畜を伴っていました。そして、大きな転機が訪れました。一緒に旅をし ていた甥ロトと一緒に行くことができなくなり、ロトとは別れることになりま
した。6節「彼らの財産が多すぎたから、一緒に住むことができなかった」7節 「アブラハムの家畜を飼う者と、ロトの家畜を飼う者との間に争いが起きた」。
アブラハムは、ロトにどこに行くのかを選ぶ権利を譲ったので、大きな損をし てしまいました。ロトが選んだ土地は、ヨルダン川の流域の土地で、一目見て緑
に溢れた肥沃な土地でした。11節「主の園(エデンの園)のようによく潤って いた」。しかし、アブラハムには、砂埃が舞い上がる荒れ地、今まで通りの荒れ
野です。
アブラハムは、肩の力をなくしてうなだれていたでしょう。しかし、独りぼっ ちではありませんでした。神様が「さあ、目をあげて見渡しなさい」と呼びかけ
てくださいました。「見えるかぎりの土地をすべて、わたしはあなたとあなたの 子孫に与える。」神様はあなたのことを認めている。神の祝福を豊かに受けてい
る、あなたの子孫も数えきれないほどたくさんに増え拡がる。臆することなく、 希望を失うことなく、この土地を縦横に歩き回るがよい。この土地は、あなたの
ものだ。この土地、この世界は、あなたが生きる場所、あなたが命を燃やす場所 だ。あなたが神の恵みを受け、神の導きを受けて過ごす場所だと、神様は励まし
てくださいました。
最近、新聞に自殺者が増えているという記事がありました。ここ数年はだんだ ん減ってきていたが、コロナの影響で増えているというのです。特に非正規で働
く女性が仕事を失ったり、家族と過ごす時間が増えて女性に暴力や心理的な圧 力がかかっているのではないかというのです。私たちは、自分の生きる術を、人
生をどうにかしないといけません。焦ります。孤独になり、不安になり、何もど うすることもできないことに諦めてしまうのでしょうか。人生の転機に独りで
あるというのは、とても淋しく心もとないことだろうと思います。人生の転機に、 アブラハムは神様の励ましを受けました。同じように、辛い目に遭っている人に、
神様の励ましがありますように、導きがありますように祈ります。
ロトは自分に選択権があると知った時、「目を上げて」周りの土地を見渡しま した。10節「目を上げて眺めると、・・・見渡すかぎり良く潤っていた。」ロト
2 も私たちと同じ人間ですから、豊かな方を選ぶのです。そして、そのことが神に 背く生き方、罪への誘いを受けることになりました。ロトの心には神様は不在で、
心にブレーキがなかった。それで、どんどん罪へと誘われていったのでしょう。 ソドム、罪深い人々の町に住むようになりました。神の裁きを受けることになる
のです。
緑豊かなソドムの町に移り住むということは、それまでの水一滴が貴重な砂 漠、荒れ野をさまよっていた生活とは、大きな変化だったでしょう。しかし、ロ
トは自分が何か特別のことをしているつもりはなかったし、さらに特別に神様 に心を向けることはなかったのでしょう。何も問題は感じなかったのでしょう。
ロトの心の中に神様はいなかったし、ロトは自分独りだったのです。
ロトと別れてアブラハムは、ヘブロンにあるマムレの樫の木のところに移動 しました。そこは、アブラハムが故郷から旅立ち、初めて祭壇を築いた場所です。
神様が「あなたの子孫にこの土地を与える」と言われて、アブラハムに対して未 来を約束してくださった場所です。 ロトと別れた時、アブラハムは大きな失敗をしました。しかし、神様から呼び
かけられ、神の約束を示されました。神様は励ましてくださいました。アブラハ ムの心は、初めてカナンの地に天幕を張り、神様を礼拝した日、あの日あの場所
へと引き戻されたのです。アブラハムには子孫が与えられる。未来がある。神の 約束を確かめ、導きを信頼する思いを改めて深めたのです。神様のもとに帰り、
神様に委ねることに自分の未来があると信じたことでしょう。
アブラハムは、神の民の最初の人です。アブラハムの存在は、この世界を神様 と結び付けています。そして、神様が私たちと共にいてくださることを示してい
ます。アブラハムは、人生の転機に、どん底に、神様を思い出す場所に戻りまし た。それは、アブラハムも神の民だからです。アブラハムは神と共に歩みます。
決して独りぼっちではありません。大きな重荷を抱えて私たちが神様の名を呼 ぶ時、祈る時、私たちは独りぼっちではありません。
初めに神様は、アブラハムに「あなたが全人類の祝福の基だ」とおっしゃいま した。神様は、このアブラハムの歩みを通して、その信仰の故に、私たちがいる
この世界を祝福しようとなさっています。アブラハムへの計らいを通して、神様 の慈しみ、救いをもたらそうとしておられます。
今年もイエス・キリストの誕生の時を待ち望みますが、イエスが誕生するまで に、神の民の初めの人アブラハムを通して神様の慈しみがこの世界に向けられ
ていたことを覚えましょう。
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