聖霊に満たされた人々のシリ−ズ9 (2006年10月1日)
初代教会の宣教の歴史:聖霊に満たされた人々のシリ−ズ
「聖書的な7人のサムライ 初代教会執事群像」(使徒6:1-7)
「そこで、兄弟たち。あなたがたの中から、御霊と知恵とに満ちた、評判の良い人たち七人を選びなさい。私たちはその人たちをこの仕事に当たらせることにします」(使徒6:3) |
初代エルサレム教会には毎日のように新しい人々がキリストを信じ、信仰を告白し、イエスの名によってバプテスマを受け、教会に所属しました。初代の教会では特に社会的弱者と呼ばれる貧しい人々への兄弟愛の実践として食事や衣服の配布などが行われていました。
人数も増え働きも多種多様になれば、円滑な運営を進める意味で必要なことは「働きの組織化」ということです。組織化がうまくできていないと伝達命令が徹底せず混乱が生じ、仕事の能率効率が悪化し、時には事故や災害を引き起こす大きな原因にもなりかねません。
さらに、誰が何をし、どんな責任をもっているのか、この件は誰に聞けばよいのか、誰から必要な情報を得ればいいのか、どこまで自分の仕事として引く受けたらいいのか、むしろ越権行為なのか曖昧になってしまいます。その結果、仕事の責任の所在や裁量権の範囲や担当窓口が不明確になり、混乱が生じ、ストレスを抱えるようになり人間関係にも溝が生じてしまいやすいものです。
そこでペテロたちはどうしたかといいますと、モーセやイエス様の実例に習ったのです。かつてモーセはエジプトから救出された数十万の同胞が荒野の生活で混乱をきたしていた時、舅イテロにアドバイスを受けて10人の単位に人々をまとめ1人のリーダーを立てました(出エジプト18:13−26)。さらに50人に1人、100人に1人、1000人に1人の隊長を任命し権限を委ね、群衆を組織化しネット化しました。かつてイエス様のの話しを聴くために5000人近い大群衆が集まり、夕暮れ時になり食べ物を分けあう際、イエス様は弟子たちに命じて50人づつ組にして座らせ(マルコ6:39−40)、各自がもれなく食事を食べることができるように配慮しました。
ペテロは「執事」と後に呼ばれるようになる「給食の配膳や信徒の日常生活の世話をする」人々のリ−ダ−を立てました。そうすることによって、職務の内容を明確にし、権限を委ね、教会内の事務的・牧会的運営が円滑に進められ、交わりが深められるように願ったのです。一方、使徒たちはこの解決策によって「みことばと祈りの奉仕」に専念できるようになりました。
しかも使徒たちはこのことを独断的に決定しトップダウンで命じたのではなく、「提案」という形で信徒に問いかけました。いわば民主的な方法で解決しようとしたのです。つまり使徒たちが何でも解決してくれるという依存性から脱却し、自分たちの問題は自分たち自身で話し合って解決してゆくという自立意識を養う機会としたのです。ですからペテロはイエス様が祈って12弟子を任命されたような指名方式を採用すせず、自分たちの中から新しいリ−ダ−を自分たちで選び出すという選挙方式を提案しました。
執事職に求められた資質条件は、「御霊と知恵とに満ちた、評判の良い人たち七人」でした。
御霊に満ちた人とは信仰に根ざした人、知恵に満ちた人とは現実的総合的判断力があり問題解決能力が高い人、評判の良い人とは人間関係能力が豊かでひとりひとりの能力や賜物を生かすことができる人とみることができると私は思います。しかもこの3点が統合しているならばこれほど執事職にふさわしいひとはいないと思います。
こうしてステパノ、およびピリポ、プロコロ、ニカノル、テモン、パルメナ、アンテオケの改宗者ニコラオの7人が選出され、使徒たちの按手によって公的に任職されました。
ときおり教会は会社とは違い制度や組織は必要ではない、むしろ神様の導きに従って自由に運営されることがより聖書的だという意見を聞くことがあります。確かに教会は家族に近い共同体ですが、人数からいえば家族の範囲をはるかに超え会社に近い共同体ともいえます。ですから教会のメンバーがかけがえのない人的資源として組織化され、各自の賜物がよりよく機能するようにグループ化され、そこにリーダーが立てられ権限や裁量権が委ねられることは、決して非聖書的なことではないと信じています。聖書の神は、平和と秩序の神なのですから、無用な混乱や役割の曖昧さからくるストレスを好まれないと私は思います。しかし組織のための組織化になったり、制度の維持のための制度化にならないように、あくまで教会の活動がより活性化されメンバ−の満足感・充実感・使命感が高められ、愛の交わりが深められるための機能第1の組織や制度づくりであることを忘れてはならないと思います。
以前、教会の中でなんとなくぎくしゃくした雰囲気が生まれて教会内の交流に硬さを感じたことがありました。「牧師としての私が悪かったのかな、いや相手の問題ではないかな」などと私の心の中が複雑に揺れ動いたことがありました。個人の問題としてとらえ謙虚に振り返って反省したり、場合によっては責任の所在を相手の問題と外在化して自責の念や自罰の苦しみから自分を守ることも必要なことがあります。と同時に、「コミュニケ-ションの悪さを生み出す組織や制度の問題ではないかな」という客観的な視点を持ち、組織や制度そのものの適切な改善を図ることも非常に大事なポイントになると思います。一般社会の組織運営においては、職場環境の改善や整備が常に検証評価され、ときには組織そのものの抜本的見直しや思い切った組織改革を進めて効率化と生産性の向上を図ったり、組織のモラ−ル(士気・やりがい・労働意欲・満足感・達成感・連帯感など)の向上を通して職場の活性化を図ったりしていることを心に留めたいものです。
このような執事職の誕生によって、エルサレム教会の内部問題は解決し、以前にもまして社会的に貧しい人々への愛の奉仕がいきいきと動き始め、一方では使徒たちによる福音の宣教、神のめぐみのことばの解き明かし、教育指導、霊的指導が力を増すに従い、信徒の数はさらに増え、驚くべきことにユダヤ教の祭司階級の人々たちまで改心し、キリスト教コミュニーの中に加わるようになってきました。教会の交わりの中に失われていたイスラエルの真の霊的共同体の姿を見ることができたからではないでしょうか。
最近、紹介されて読んだ「ビジョナリーカンパニー」という経営哲学書に、「時を告げる人ではなく時を刻む時計を創る人になる」ということばがありました。
「今何時ですか」と時間を尋ねられて「朝9時15分20秒です」と正確な時間を告げることができるのはすばらしいことですが、さらにすばらしいことはその人が他人に時間を尋ねなくても自分で腕時計をみて時刻を知ることができるように、時を正確に刻む時計そのものを創り出す人になれという趣旨が書かれていました。
リ−ダ−に求められる資質の一つは、時を刻む時計を創る人、すなわち適切で普遍的な価値を有する理念とその理念を生かす組織を創りかつコミュニケ−トする役割を担う人であるという指摘に私はたいへん共鳴しました。そうでありたいと祈らされました。
「御霊と知恵とに満ちた、評判の良い人たち七人」(使徒6:3)という新しい教会リ−ダ−たちの理念と制度は、エルサレム教会のみならず世々の教会の普遍的価値ともなり指針ともなっているのです。
私たちの教会に立てられている役員陣もこうして主と会衆によって選ばれ立てられた主の器であり、いのちのことばの宣教者でもあるのです。主イエスに感謝し、役員さんたちの働き、健康、家族の祝福のために祈るお互いでありましょう。教会のサイズにかかわらず役員さんたちは結構忙しくて精神的に抱える負担も大きく、しばしば燃え尽き症候群状態すれすれで奉仕をささげてくださっていますから、みなさんの「ご苦労様です」のあたたかい一言が大きな励ましと元気づけになるのではと思います。
「よく指導の任に当たっている長老は、二重に尊敬を受けるにふさわしいとしなさい。みことばと教えのためにほねおっている長老は特にそうです。」(1テモテ5:17)
まとめとして3点をお伝えしたいと思います。
@ エルサレム教会内で起きた深刻な問題は、執事職の誕生という画期的な制度を生み出す最善の機会となったことです。「問題」を自分たち自身で改善解決してゆこうと「課題」として受けとめるならばかならず新しい解決への道が用意されるのです。
A自分であれ他人であれ問題の所在を人の中に見いだそうとするばかりでなく、組織制度の改善という客観的課題の中に見いだし現実的実際的に解決してゆこうとする視点をも忘れてはならないことです。
B 執事職の創設は実体的には、世代交代を意味しています。イエス様の死と復活の目撃者であり証人であった使徒たちの世代から、彼らの証しを聞き、福音を信じた次世代へ教会形成の働きが委譲されてゆくきっかけとなったのです。とりわけ、代表執事であったステパノやピリポはその後、執事職として活躍するというよりステパノは説教者、ピリポはリバイバリスト伝道者して大いに用いられました。つまり端的に言えば、「神のめぐみのことば」「いのちのことば」の宣教が、使徒たちから執事たちへ、信徒たちの手に委ねられたといえます。こうして教会はみことばの宣教の共同体として新しい力を帯び、新たな人材を得たのです。
私たちは教会の使命と存在理由の一つが「福音の宣教」にあることを確認させていただきましょう。
「みことばを宣べ伝えなさい。時が良くても悪くてもしっかりやりなさい。寛容を尽くし、
絶えず教えながら、責め、戒め、また勧めなさい。」(2テモテ4:2)
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