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靖国神社問題を巡って
小泉首相は、終戦記念日の8月15日に中曽根首相以来、実に85年ぶりに、靖国神社への公式参拝を強行しようとしています。公明党など与党内や現職閣僚からも「熟慮」「慎重に再考」「再検討」などの声が挙がり、韓国や中国政府からは厳しい非難が寄せられていますが、首相は「熟慮断行」という言葉もあると強硬姿勢を崩さず、「家族や国のことを思って戦争に行かざるをえなかった人々を人への敬意を込め、総理として参拝する」と明言しています。
1 靖国神社の由来
靖国神社は明治天皇によって維新戦争で殉じた官軍兵士を慰霊する目的で明治2年に「東京招魂社」として建立されました。明治12年には「別格官幣・靖国神社」と改称され、陸海軍の共同管理となり、国家に一命をささげた人々が神・英霊として祭祀される場所となりました。
戦後はGHQ(連合軍総司令部)による「神道指令」によって国家と分離され、宗教法人・靖国神社として発足し今日に至っています。幕末期の戊申戦争からアジア太平洋戦争までら亡くなった246万4千余柱が祭られています。祭神は軍神とも呼ばれていますが、その中には戦争裁判で死刑判決を受け刑死・獄死した14名の戦犯(靖国神社では「昭和受難者」と呼んでいます)や、台湾・朝鮮出身の軍人軍属、約5万人も合祀されています。
2 靖国神社の意義
靖国神社は「本神社は、明治天皇の思し召しに基づき、嘉永6年以降、国事に殉ぜられた人々を奉斎し、永らくそのみたまを奉慰し、その御名を万代に顕彰するため、明治2年6月29日に創立された神社である。」と、社憲に設立目的を明記しています。天皇と国のために戦死することは「神徳」とされ、顕彰されるべき国民の理想とされ、それゆえに戦没者は軍神、英霊として合祀され、永らく祭られるという理念が明白に記されています。
戦前、戦中、靖国神社は軍国主義の象徴的宗教施設でした。生きているときは天皇の赤子として国のために尽くし、戦死したときには国家を護持する「守護霊」として祭られます。「靖国で会おう」が出陣する兵士たちの合い言葉となり、天皇によって慰霊顕彰されることは遺族たちの栄誉とされました。
3 靖国神社公式参拝の違憲性
もし政府が戦没者への追悼を表し、2度と戦争を起こさないことを誓うならば、8月15日に挙行される武道館での「全国戦没者追悼式」こそ唯一そして最もふさわしい場です。1993年の式辞で、細川首相が初めてアジア近隣諸国への加害の責任を語りました。日本で310万人、アジア諸国で2千万人の犠牲者を出した戦争責任や謝罪が明白にされないままでは真の追悼とは言えません。ましてや侵略戦争をアジア解放の戦争であったと正当化することは許されないはずです。戦没者は戦争による被害者であり、国家権力による犠牲者であったことを忘れてはなりません。
靖国神社参拝問題を根本的に解決するための方法として、中国政府が強く要求しているように、いわゆるA級戦犯を分祀する考えが提案されています。しかし、神道の教えによれば「一度合祀され神となられた英霊を都合で分ける」ことなどはできないと学者や靖国神社は反対しています。そこで、天皇ー軍国主義ー国家神道・靖国神社というラインから離れた「国立墓地の建設」が有力案として提案されています。その場合、アメリカのア−リントン墓地、あるいは沖縄の「平和の礎」などがモデルとして考えられています。あるいは、アジア太平洋戦争で外国で戦死した兵士たちの遺骨を収集し納骨してある「千鳥が淵墓苑」を整備し、無宗教形式で公式の追悼会を行うことなども検討されています。しかし、自民党内にもさまざまな意見があり、まとめることができていません。右派系の自民党議員や学者など、「靖国神社の国家護持・国営化・天皇による参拝」を最終目標とする勢力が存在しているためです。
首相の靖国神社公式参拝は違憲か合憲かという憲法議論が、活発になされています。最高裁判決が出ていない以上、下級審の判例に基づいて総合的に判断するしかありません。日本弁護士連合会の久保井会長は、7月26日に、小泉首相の靖国神社参拝は憲法20条3項が禁止する「宗教的活動」に抵触する違憲行為であると断言し、中止を求める声明を出しました。キリスト教会でも、首相の靖国神社参拝への反対声明が出されています。
憲法違反が強く指摘され、国内でもこれほどの反対意見が渦巻く中、しかも韓国・中国政府からの強い懸念が出されている国際情勢の中で、あえて頑迷に強行するメリットはどこにもありません。今日まで築きあげてきた信頼と協力関係を突き崩す思慮に欠けた行為だと思います。参拝、慰霊というような明らかな宗教行為は公人としてではなく、あくまで私人として自らの信仰と信条にしたがって行うべきです。平和憲法を有する国の首相には、戦没者追悼会において、遺族とアジアの諸国民に向かって、誠意に満ちた改革的な式辞をしっかりと語っていただきたいと要望します。名誉ある撤退、熟慮断念の道を選ばれることを最終的に選択されることを強く期待します。
8月15日、首相がどのような最終判断をくだすか、熟慮断行するのか、熟慮断念するのか、もし参拝するとしても、どのような形式で参拝するのか、さらに韓国や中国に対してのような説明を心を尽くして行うのか、「全国戦没者追悼式」でどのような式辞を語るのか、注意深く見守りましょう。
2001年8月5日