「ナオミ(喜び)」ルツ記1章15節~22節
ドラマにおいて主役と共に脇役の良し悪しが作品の良し悪しを左右するという話を聞いたことがあります。良い作品の影に名脇役が存在します。ルツ記の主役はモアブの女性ルツですが、ナオミの存在がより内容を深める役割をしています。今日は、ルツ記からナオミについて学びます。
1、時代背景。
ルツ記の1章1節に「さばきつかさが治めていたころ」とあります。ルツ記の時代背景は、士師記の時代です。その時代は、モーセを通してイスラエルの民がエジプトを出発し、40年の荒野での生活の後、ヨシュアによってカナン地を征服した時代です。ヨシュアが生きている時代、イスラルの民は神様の戒めを守り国は平和でした。しかし、ヨシュアが亡くなると、人々は神様からの戒めを捨てて、カナンの神々を礼拝するようになりました。すると国が不安定になり、外国から侵略され苦しみを受けます。そこで、イスラエルの民が神様に助けを求めます。すると神様がイスラエルの民の祈りに応えて、士師(リーダー)を遣わし、イスラエルの国を助けます。また、その士師が亡くなると、イスラエルの民は、神様の戒めから離れ、偶像を拝むようになり、国が乱れてきます。士師記のお話しはその繰り返しです。ルツ記の時代もそのような不安定な時代の出来事なのです。
2、モアブでの生活。
モアブの国は、ヨルダン川の東に位置し、その子孫はアブラハムの甥ロトの子孫と言われています。士師記の時代、イスラエルの国はモアブの国に侵略された時代もありました。しかし、ルツ記の時代は友好関係にあったのでしょう。ナオミと夫のエリメレクは、イスラエルの国が飢饉で食べ物が乏しかったため、ふたりの息子を連れて、モアブの地に避難のため移住してきたのです。何年後のことかわかりませんが、それからナオミの夫エリメレクはふたりの子を残して死んでしまいました。夫に先立たれ、ふたりの子を残されたナオミはどんなにつらかったことでしょう。今でも、女性が一人でこどもを育てるのがたいへんな世の中です。ルツ記の時代ではなおのこと大変であったと想像します。しかし、ナオミはそんな苦しみにも負けず、ふたりの息子を立派に育て上げました。
3、ふたりの息子の結婚と死。
ふたりの息子マフロンとキルヨンは、それぞれモアブの女性オルパとルツと結婚しました。ナオミにとってこの異国の女性と息子の結婚は、今後の彼女の人生において深い思いを与えたのではないでしょうか。少なくとも、イスラエルの国に帰ることをあきらめ、モアブの地で生涯を過ごすことを決めたのではないかと思います。そんな彼女に、またしても不幸が訪れました。二人の息子マフロンとキルヨンが死んでしまったのです。彼女は夫を亡くし、ふたりの息子をも亡くしてしまいました。女性にってこれほど悲しい出来事はありません。失意の彼女にとって、一つのことしか考えられませんでした。それは、生まれた国イスラエルの国に帰って人生を終えることでした。そこで、彼女は二人のモアブの嫁と別れる決心をしました。二人にって、モアブの地で再婚し幸せ人ることが二人のためと考えたからです。ナオミは二人に別れを告げました。しかし、ルツはナオミと共にイスラエルの国で暮らすことを願い出たのです。16節「あなたを捨てて、あなたから別れて帰るように、私にしむけないでください。あなたの行かれる所へ私も行き、あなたの住まれる所に私も住みます。あなたの民は私の民、あなたの神は私の神です。」ナオミはルツの決心が固いのを見て、彼女と共にイスラエルの国に帰ることを決心しました。しかし、このことは彼女にとって、重荷ではありましたが、かすかな喜びでもあったでしょう。
4、失意のナオミと神様の備え。
ナオミとルツが故郷のベツレヘムに着くと、二人の事が町中のうわさになりました。ナオミが何十年ぶりに帰って来ただけでも、うわさの種になるのにモアブの女性を連れての里帰りです。町中に二人のうわさが広がりました。ナオミはそのうわさ話に対して、20節「私をナオミ(喜び)と呼ばないで、マラ(苦しみ)と呼んでください。全能者が私をひどい苦しみに会わせたのですから。」と言いました。この言葉は彼女の正直な気持ちでした。彼女は希望があって故郷に帰って来たわけではありません。これから二人どのように生活したらよいか、不安で仕方がなかったとおもいます。しかし、神様は二人に想像もできない幸せを準備しておられたのです。
5、二人に備えられた神様の祝福。
ルツは姑ナオミのために積極的に外に出て行って働き始めました。まず、彼女は刈り入れの後の落ち穂を拾うことから始めました。当時、貧しい人達のために、刈り入れの後の落ちた穂を集めることは許されていたのです。そして、ルツが働きだした畑は、ナオミの夫の親類のボアズの畑でした。イスラエルの律法では、子を残さずに夫を亡くした場合、親族がその未亡人と結婚して夫の名をその子に継がせなければならないという法律がありました。ナオミはルツがボアズの畑で親切に扱われた事を聞いて、神様の導きを感じました。ルツとボアズが結婚する以外にルツが幸せになる方法がないからです。イスラエル人のボアズにとって、モアブの女性と結婚することは簡単なことではありませんでした。そこで、ナオミは夜、ルツにボアズの寝床を訪ねるように命じ、ルツの気持ちをボアズに伝えさせたのです。ボアズは自分の足元にルツが寝ているのに気がついて驚きました。しかし、それと同時に、彼女の気持ちを察して、その晩は、彼女に大麦六杯を与えて家に返したのです。
6、神の備えられた祝福。
ルツの気持ちを知ったボアズは彼女のために、結婚の準備を始めました。まず、彼は、自分よりナオミの夫の近い親族の男性を探し出し、ルツと結婚する意思があるかを確かめました。彼がルツと結婚する意志がない事を知ると、町の長老の前で、モアブの女性ルツと結婚することを宣言したのです。二人は正式に結婚し、こどもが生まれその子にオベデという名をつけました。オベデの子はエッサイ。そして、エッサイの子からダビデ王が誕生したのです。モアブの国からイスラエルの国に帰る時、ナオミもルツも不安がありました。どのようにして、ふたりでエルサレムの国で暮らすことができるのか。しかし、モアブの女性でありながら、ナオミの信じる神様(イスラエルの神)を信じる決心をしたルツを神様は捨てることなく、最高の祝福を準備してふたりの帰りを待っていたのです。私たちの人生も時につらいこともあります。祝福だけではありません。しかし、神様は私たちの人生に必ず祝福を準備してくださっています。ナオミとルツの人生のように。ルツ記はそのことを私たちに伝えるお話しなのです。