兄カインと弟アベルとの関係

「兄カインと弟アベルとの関係」 創世記4章1節~16節

  創世記の3章において、アダムとエバは罪を犯しエデンの園から追い出されてしまいました。創世記4章は、その後のアダムとエバの家族について記しています。アダムとエバに長男カインと次男アベルが生まれました。二人にはそれぞれ与えられた仕事がありました。カインは土を耕す者、アベルは羊を飼う者です。二人はそれぞれの働きから得た収穫物を、神様にささげました。ここで注意したいことは、4節「アベルは彼の羊の初子の中から、それも最上のものを、それも自分自身で持って来た。」ということばです。カインについては何も書かれていません。あるマンガの聖書物語の中で、創世記のこの場面を、カインがむぞうさに穀物をむしり取り、神様の前に投げ捨てる場面が描かれていました。聖書はそのようなことは書かれていませんが、作者がこの場面をそのように理解し描いたのでしょう。神様はアベルのささげ物に目を留められましたが、カインのささげ物には目を留められなかったとあります。神様がアベルのささげも物に目を留められたのは、それが羊であったからではありません。アベルが神様のために、最上の物を選び、ささげたからです。そこに神様はアベルの信仰を見られたのです。では、カインはどのような気持ちで神様に穀物をささげたのでしょうか。何も書かれていないので、想像ですが、カインは形式的に神様へ捧げただけで、心の中に神様への感謝の気持ちがなかったのではないでしょうか。それゆえ、神様はカインのささげ物に目を留められなかったのです。カインはそのことに気付き、やり直すべきでした。しかし、カインは弟アベルに自分の怒りをぶつけ、アベルを殺してしまったのです。

  ここからカウンセリング的な見方で、二人の関係を考えたいと思います。カインはなぜ、怒りアベルを殺してしまったのでしょうか。家族の中で、兄弟とは特別な関係にあります。親と子は縦の関係です。また、友人は横の関係です。そうすると兄弟は斜めの関係に位置します。兄弟は親子ほど強い支配的な関係ではありません。しかし、友人関係のように平等でもありません。ここに兄弟の微妙な関係があります。家族関係のカウンセリングにおいて、兄弟の関係は四つに分類されます。

(1) 専制関係(兄弟のどちらかが優位にたっている関係)

(2) 分離関係(兄弟の相互に積極的な交渉が認められない関係)

(3) 対立関係(兄弟の中の誰かが優位にたつことはない対立関係)

(4) 調和関係(兄弟の仲がよく、親和的な雰囲気が認められる関係)

  また、私たちは家族を選べないと同時に、兄弟関係も選ぶことは出来ません。これは全て神様の領域で、神様は私たちにふさわしい家族、兄弟を与えてくださいました。また、それによって、私たちは知らず知らずのうちにその影響を受け、長男は長男としての性格を身に着け、末っ子は末っ子としての性格を身に着けます。私たちは生まれつきの性格をもっていますが、それよりも、生まれた後に、環境によって身に着ける性格の方が影響が大きいと言われています。特に、ひとりっ子、長男長女、末っ子などは、その生まれた順番によって、ある程度の性格が定まってきます。お手元の表は、それぞれの性格を表したもので、100%そうなるとは言えませんが、おおかたそのような性格に分類されるのではないでしょうか。私は三人兄弟の末っ子です。「永遠の赤ん坊」とありますが、大人になり切れない、甘えん坊のところがあり、責任感が強い長子とは対極に位置していると思います。また、創造性に富む、劣等感が強いというのも当たっているように思います。

  聖書のお話に戻って、カインはどうしてあれほど怒り、その怒りを弟アベルにぶつけてしまったのでしょうか。先ほどの兄弟関係の中で、兄は兄としてのプライドがあります。カインは、神様がアベルのささげ物に目を留められて、自分のささげ物に目を留めていただけなかったことで、カインは弟アベルに負けたという思いを持ったのではないでしょうか。兄は常に兄として弟より上に立ちたいという感情があります。この感情が傷つけられた時、人は抑えがたい怒りの感情を呼び起こしてしまいます。神はカインの怒りを見て、このように戒められました。6節7節「なぜ、あなたは憤っているのか。なぜ、顔を伏せているのか。あなたが正しく行ったのであれば、受け入れられる。ただし、あなたが正しく行っていないのなら、罪は戸口で待ち伏せして、あなたを恋い慕っている。だが、あなたは、それを治めるべきである。」しかし、カインは怒りの感情を治めることができずに、アベルを野に誘い出し殺してしまいました。

  創世記の4章9節で神はカインに声をかけました。「あなたの弟アベルは、どこにいるのか。」神様はカインがアベルを殺したのを知った上で、カインにこのように呼びかけられたのです。それは神様がカインに悔い改めのチャンスを与えられたということです。しかし、カインは悔い改めませんでした。カインの答えは「知りません。私は、自分の弟の番人なのでしょうか。」そこで神はカインに言われました。11節「今や、あなたはその土地に呪われている。」12節「それで、あなたがその土地を耕しても、土地はもはや、あなたのためにその力を生じない。あなたは地上をさまよい歩くさすらい人となるのだ。」と言われました。カインは自分に与えられた神の刑罰におののき、「私の咎は大きすぎて、担いきれません。」14節「ああ、あなたはきょう私をこの土地から追い出されたので、私はあなたの御顔から隠れ、地上をさまよい歩くさすらい人とならなければなりません。それで、私に出会う者は誰でも、私を殺すでしょう。」と嘆きました。神は彼のために、彼が殺されないようにしるしを与えられたとあります。それで、カインはさらに神様から離れ、エデンの東ノデの地に住み着いたのです。

  先程の兄弟関係の中で4番の「調和関係」の兄弟は少ないように思います。専制関係、分離関係、対立関係、が多いのではないでしょうか。兄弟は血のつながりもあり、難しい関係でもあります。しかし、このようにそれぞれの傾向を知ることによって、理解を深め、調和の関係に近づけることができるのではないでしょうか。カウンセリングの基本に、「過去と他人は変えることは出来ないが、未来と自分は変えることができる。」という考えがあります。私たちは他人が変わることを祈り、相手が変わることで自分も変わると考えがちですが、いつまで待っても変化はありません。それよりも、自分の相手への見方を変えることによって、こちらの態度を変える時、二人の関係に変化が生まれてくるのです。