■指揮/ヴォルフガング・サヴァリッシュ
■管弦楽/ライプツィヒゲヴァントハウス管弦楽団
■合唱/ライプツィヒ放送合唱団
■独唱/エリー・アーメリング 他
旧約聖書を元にした音楽って意外と少ない気がします。ぱっと思いつくのはハイドンの「天地創造」、オネゲルの「ダビデ王」くらいでしょうか。オラトリオ「ヨセフ」とか、オラトリオ「イザヤ」なんてのがあったら面白いと思うんですけど。
今回ご紹介のメンデルスゾーンのオラトリオ「エリヤ」は、旧約最大の預言者の一人であるエリヤを主人公にした音楽。エリヤは、旧約の中でも特に個性的な人物ですが、メンデルスゾーン以外に取り上げた作曲家は見当たりません。
宗教音楽というとどうしても身構えてしまう方もいらっしゃるでしょうが、エリヤは何せ物語がドラマティックですから、音楽も文句なくドラマティックです。メンデルスゾーンという作曲家は、若くして亡くなっていますが、裕福な銀行家の家庭に生まれ、物質的には何不自由ない生活を送りました。そして、当時忘れられていたJ.S.バッハの「マタイ受難曲」を復活させた彼は、敬虔なルーテル派のキリスト者でした。
そういうメンデルスゾーンの生き方は、音楽にも表れている気がします。苦悩とは無縁の人生だっただけに、ベートーヴェンのような「苦悩を克服して歓喜へ」というような精神性は希薄ですが、逆に彼の音楽の良さは、敬虔な信仰心に由来するのではないでしょうか。響きが純粋で透明度がとても高いんですよね。
なので、メンデルスゾーンは宗教音楽に適性が高い気がします。この「エリヤ」は、物語がドラマティックな上に、メンデルスゾーンとしても気合いが入っていたのか、オラトリオというよりはオペラみたいになっちゃってますが(笑)、そこが良いところと言えましょう。宗教音楽にありがちな「ハードルの高さ」があまり感じられず、それこそスペクタクル史劇を楽しむノリで聴けます。
メンデルスゾーンは、対位法(カノンやフーガのような、旋律の絡み合い)の扱い方においても、バッハに比べてもずっとメロディに起伏に富んでいるんですよね。そういうところも、楽しんで聴ける要因の1つなのではないかと思います。「マタイ受難曲」なんて、聴く方に正座を要求する曲ですからねえ。
ただ、聖書を下敷きにした音楽の場合は、CDの解説での表記とかもちょっと気を配って欲しい気がします。「バアル」の事を「バール」とか書いちゃってます。そりゃ、いくら数百人の預言者たちがバールに祈ったところで、工具は答えてくれませんよね(笑)。
個人的に、「真夏の夜の夢」と言い、交響曲第4番「イタリア」と言い、メンデルスゾーンの音楽は暑い季節が合う気がしています。「オラトリオって、気軽に聴けないから手を出し辛くて」という方、この季節は「エリヤ」を聴きながら、雨乞いをしてみるというのはいかがですか(何じゃそりゃ)。