■指揮/ロヴロ・フォン・マタチッチ
■管弦楽/ベルリンオペラ管弦楽団
■合唱/ベルリンオペラ合唱団
■独唱/ルドルフ・ショック 他
讃美歌には作曲者名も載っていますが、よっぽどの事がないと、作曲者にまで気を配る事はまずないのではないでしょうか。ですから、意外なところで意外な作曲者を見つけて、「おや?」と思う事も結構あります。21の83番がシューベルトによる作品という事は既にご紹介しましたし、211番「あさかぜしずかにふきて」や262番「聞け天使の歌」はメンデルスゾーン、256番「まぶねのかたえに」は、J.S.バッハです。
そして、作曲家に気付いてから曲をよく見ると、そういう曲はやはり群を抜いてよく出来ているんですよね。今回の曲もそうです。讃美歌21では504番「主よ御手もて」。初めてこの曲を歌った時、「あれ? この曲はもしかして?」と気付きました。
急いで作曲者名を確認すると、「Carl Maria F. E. von Weber」。ウェーバーです。クラシックマニアにはおなじみの作曲家で、「舞踏への勧誘」という作品でも有名。そして504番はずばり、彼の代表作である歌劇「魔弾の射手」の序曲のメロディそのまんまです。クラシックファンなら必ず知っている曲ですが、もしも何も知らずにこのオペラを耳にしたら、「ウェーバーの奴、賛美歌をパクりやがって!」と思うかも知れません(そんな人はいないか)。
この曲(チューンネーム「Jewett」)は、他のプロテスタント諸教派でもおなじみのようで、バプテスト連盟新生讃美歌495番「主よ御手もて」、ルーテル教会賛美歌476番「わが行く道」(21だと463番にそういうタイトルの曲があるので、混乱しますが)、日本聖公会聖歌469番「わが主イェスよ」、救世軍歌306番「わがえらびしみちにあらで」、SDA希望の讃美歌324番「主よ御手もて」、そして54年版讃美歌285番「主よ御手もて」、365番「わが主イェスよ」。
ことごとく色んな教派の賛美歌集に入っている事を見ても、この曲がいかに優れているか、そしてこの曲がいかに愛され続けているかの表れと言えましょう。
オペラというと、スケールばかり大きくて内容は意味不明だったり(ワーグナーとか)、長いだけで退屈だったり(ベートーヴェンの「フィデリオ」とか)、完全に内容がめちゃくちゃだったりする事(モーツァルトの「魔笛」とか)も少なくないのですが、この「魔弾の射手」はなかなか面白い物語で、音楽も物語も楽しめると思います。簡単にあらすじをご紹介しましょう。
名射手であるマックスは、御前試合を前にして不調にあえいでいました。御前試合に勝てれば、森林保護官の娘と結婚できる上、保護管になる事ができるのですが、マックスは完全に自信を失っていました。そんなマックスに、同僚のカスパルは「魔弾」の存在を教えます。悪魔に魂を売り渡す代わりに、射手の意のままに操れる魔弾を手にするマックスの運命やいかに、そして御前試合の結果は?
ざっとこんな感じです。なかなか興味をそそる内容でしょう? そして有名な序曲。ホルンによって「主よ御手もて ひかせたまえ……」のあのメロディが奏でられるのを聴いたならば、キリスト者であれば必ず気分が高揚する事は請け合います。もっとも、全3幕のオペラのうちであのメロディが登場するのは最初だけなんですけどね。
この序曲は有名ですので、序曲だけでも購入できるはずです。「魔弾の射手」というオペラ自体は、「ジングシュピール」すなわち「歌芝居」で、台詞が分からないと意味が分からないですから、ある程度オペラ慣れしていないとちょっときついものがあるかも知れません。
なので、取りあえず序曲だけ聴いてみるのもいいと思います。賛美歌の、そして西洋音楽の長い歴史の持つ力を感じられる事間違いなしの名曲。是非お聴きあれ。