■ウィリアム・バークレー著/滝沢陽一訳
■日本基督教団出版局
■四六版・336ページ
新約聖書はギリシア語で書かれました。なので、そのギリシア語に通じる事は、新約聖書をより深く理解する上で大いに助けになる事でしょう。しかし、牧師ならいざ知らず、一信徒がギリシア語に簡単に手を出せるはずもありません。何たって英語では「さっぱりちんぷんかんぷんだ」というのを、「It's greek for me.」(=私にとってそれはギリシア語だ)という程ですから。
さてこの本は、別にギリシア語の文法を解説した本ではありません。新約聖書で特徴的に使われているギリシア語の単語を、「聖書的」に(ここ重要)解説したものです。その解説が分かりやすく、一信徒が「ギリシア語雑学本」のつもりで読んでも、容易に頭に入ってきます。
とは言え、この本は単なる雑学本ではありません。新約聖書はコイネーギリシア語で書かれていましたが、古典ギリシア語ではその単語はどんな意味で、あるいはどんな場面で使われていたかを、例をひいて丹念に解説し、また英語ではどのように訳されているかも対比されています。解説を読み、英語との対比を見ると、福音書記者やパウロ達が、一体どんな背景で、どんな意図をもってその言葉を使ったかがよく分かり(また、英語や日本語に訳すのにどれだけ骨を折ったかも見えて来ます)、新約聖書に対する理解がより深まる事請け合いです。
取り上げられている単語は「アガペー」「エウアンゲリオン」「エクレシア」「コイノニア」「ロゴス」「カリスマ」などのおなじみのものから、きいた事もないような単語まで多岐にわたります。一章ごとの長さも適度で、毎日少しずつ読めば、飽きずに読み進める事ができるでしょう。必ず聖句をひき、「聖書的な意味はどうか」「キリスト教的にはどうあるべきなのか」を示すので、信仰を深める意味でも大いに益のある書だと思います。
それにしても、この本でギリシア語のほんの一面に触れて思うのは、その人間と神に対する表現の豊かさです(「愛」だけで4つの単語を持つくらいですからね)。日本語はおろか、英語ですらそのニュアンスは十分に伝わっていないのではないかとすら思えます。これはやはり、哲学が大いに発展し、「真理を知る事」が何より高い価値があると考えられていた事と無縁ではないでしょう。
そんな難しい事を抜きにしても、この本は読み物として単純に面白いです。ウィリアム・バークレーの高い学識と文章力のなせる業でしょう。新約聖書に新しい光を当てる1冊と言っても過言ではありません。お薦めです。