■C.S.ルイス著/柳生直行訳
■新教出版社
■四六版・358ページ
著者のC.S.ルイスは「ナルニア国物語」の作者として知られますが、元々は無神論を唱える学者だったそうです。そしてこの本は、元々無神論の学者が書いたキリスト教の入門書です。そのため、この上なく論理的に書かれており、この本を読めば「唯一の神がおられる」事に納得せざるを得ないでしょう。
入門書とは言っても、全くキリスト教に興味がない人がいきなり読んで理解できるような本ではありません。一部にはかなり難解な箇所もあり、私は都合5回この本を通読しました(今後も読む予定ですが)。しかし、著者ルイスが取り上げる比喩が的確で、かつ論理の組み立て方が非常に堅固なため、読んでいるとぐうの音も出なくなります(笑)。
ルイス自体は英国国教会の信徒であったそうですが、この本では教派の違いに由来する些細な違いには、一切触れられていません。タイトル通り、「キリスト教の精髄」だけを語っています(原題は「混じりけのないキリスト教」というような意味合いらしいですが)。そのため、プロテスタントやカトリック、福音派や聖霊派など、教派を問わずお薦めできる本です。
この本は、平信徒が読むにはどちらかと言えば難し目に書かれている本ではありますが、それでも案外するすると読めてしまうのは、恐らくこの本が元々はラジオ番組の放送講演用の原稿だったせいもあるでしょう。確かに結構なボリュームがあるのですが、1回15分のラジオ放送用に書かれたためか、各項目は要領よくまとまっており、読んでいて途中で混乱に陥る事はありません。
最初に「神はいるのか」と言った論議から始まって、「赦し」「贖罪」などの基本教理、更に「キリスト教の結婚観」「自分のように他人を愛するには」、最後には三位一体論にも触れます。用語は特に難しくはなく、それでいて本質に鋭く迫る論旨には、著者ルイスの卓越した筆力を感じさせます。
もっとも、「自分のように他人を愛する」事において(第3章第7節のあたり)、カルヴァンの著作とはちょっと論調を異にする箇所がありました(私がそう感じただけかも知れませんが)。また、ルイスはあのカール・バルトから猛反発を受けたという話もあります。まあここら辺は、各人が読んでみて判断されてください。たとえバルトに反発されようとも、この書物の価値は不滅だと思います。信仰にしっかりした土台が欲しい方には、この本は打ってつけです。
キリスト者だからと言って、お固い本ばかり読まなければならないという事はないと思いますが、信仰にはやはり確固たる「理論的裏付け」がないと駄目だと思うのです。体験だけを重視していては、本当の信仰とはならないと思っています。「神学なき体験は盲目であり、体験なき神学は空虚である」(渡辺善太)とは、よく言ったものです。