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2019年3月10日（日） 四旬節第一主日
「人はパンだけで生きるのではない」 ルカの福音書4章3～13節
牧師 若林學
わたしたちの父なる神と主イエス・キリストから恵みと平安とがあなた方の上にありますように。アーメン。
さてイエス様は、ヨルダン川で洗礼者ヨハネから洗礼を受けられ、救い主の任務に就かれました。この時イエス様は聖霊様に満たされていました。この聖霊様に満たされた救い主の第一番目の任務が、悪魔の試み遭われることでした。聖霊様に満たされた救い主が、なぜ悪魔の試みに遭われなければならなかったのでしょうか。聖霊様は創造主である神様であり、イエス様も神様であり、他方、悪魔は神様の被造物です。イエス様が造られた物です。このことはヨハネの福音書1章3節にはっきりと書いてあります。「全ての物は、この方によって造られた。」したがって、どちらが上であるかは火を見るより明らかです。そういう意味では、神様に挑戦する悪魔は大人と小さな子供が相撲を取るのに似ていて、勝敗は決まっています。そのような分かり切った戦いを、なぜする必要があったのでしょうか。
その理由がヘブル人への手紙2章17節に書いてあります。「そういうわけで、神のことについて、あわれみ深い、忠実な大祭司となるため、主はすべての点で兄弟たちと同じようにならなければなりませんでした。それは民の罪のために、なだめがなされるためなのです。」大祭司は神様の言葉を民と指導者に告げ、神様の前で全イスラエルの民の罪の贖いを行う、民の代表です。イエス様は憐れみ深い忠実な大祭司となるために、全ての点で、私たち人間と同じようにならなければならなかったからです。即ち私たち人間が悪魔に試みられているように、イエス様も悪魔に試みられなければならなかったのです。ですからイエス様が悪魔の誘惑を受けられたのは、父なる神様の指示であったということが分かります。また1節の「御霊に導かれて」と書いてある言葉も、神様の指示であったことを示しています。
さらに神様であるイエス様が悪魔の試みを受けられたのは、イエス様御自身の為ではなく、私たち人間の為でもあったということです。人となられたイエス様も、悪魔の試みを受けられたのだから、イエス様は私たちの苦しみをご存知だ、と人間に受け入れてもらうためでした。そういう訳で先ほどのヘブル人への手紙の著者は、その続きである2章18節でこの様に言っています。「主は、ご自身が試みを受けて苦しまれたので、試みられている者たちを助けることがおできになるのです。」イエス様は神様かもしれないけれど、人間でもある。だから私たちのことはわからない、と受け取るのではなく、悪魔の試みを受けて苦しまれたのだから、私たちの苦しみをもご存知だ、と受け取ることが出来るためです。そして私たち人間が、誰でも安心してイエス様を信じ、身を委ね、イエス様の助けを受けて、この世を楽々と渡っていくためです。
イエス様が受けられた悪魔の試みは3種類あります。食欲の試み、富や権力の試み、そして信仰の試みです。
悪魔は、まず食欲という人間の基本的なことからイエス様を試みました。イエス様は聖霊様によって荒野に導かれ、40日間の断食に入りました。何故40日間の断食なのか、と言いますと、原本のギリシャ語聖書で「40日が終わらせられた。」と受身形で書いてありますので、父なる神様が40日という日数を決めておられたと言えます。モーセがシナイ山の上で、神様から十の言葉が書かれた契約の板を受け取った時も、40日間の断食でした。出エジプト記34章28節を見ますと、モーセはその時、水も飲まず、パンも食べず、主と過ごしたと書かれています。40日間の断食は、人間にとって健康的に許されるぎりぎりの日数だったのかもしれません。その40日の間、聖霊様によって、厳しい断食を経験されたのです。ですからイエス様を飢餓状態にさせたのは、父なる神様の御計画であったと言えます。2節を見ますと「四十日間悪魔の試みに遭われた。」と書いてありますので、悪魔は40日に渡ってイエス様に毎日毎日現れて、「お腹がすいただろう。断食なんぞはやめたらどうだ。」と繰り返して誘惑し続けていたのとみられます。ところがイエス様はお腹がすいていなかったので、残念ながら悪魔の試みに乗ることはありませんでした。お腹がすいたのは40日目が終わってからでした。「その時が終わると、空腹を覚えられた。」と書いてあります。40日間空腹を感じなかった分だけ、40日後に襲った空腹感はすさまじいものであったろうと想像されます。
それを狙ったのでしょう、悪魔が現れ、その空腹感に付け込んで言いました。「あなたが神の子なら、この石にパンになれと言いつけなさい。」もしここで悪魔の誘いに乗ってイエス様が奇跡を行い、石をパンに変えておなかを満たし、自分が神の子であることを証明したとしたのなら、父なる神様がなぜ40日間の断食をやらせたのか、その御計画に逆らうことになり、父なる神様に信頼を置いていないということになってしまいます。悪魔の試みはイエス様を父なる神様から引き離すことだったのです。ちょうど悪魔がエデンの園で、アダムとエバをだまして、父なる神様から引き離したのと同じです。
また、このイエス様の40日間の断食は、悪魔に対する最も効果的な対処法を私達に教えてくださるためだったとも言えます。その対処法とは、悪魔に答えられたイエス様の言葉です。「『人はパンだけで生きるのではない』と書いてある。」この御言葉を覚えることが大切です。「『人はパンだけで生きるのではない』と書いてある。」とそっくり覚えるのです。『人はパンだけで生きるのではない』と前半だけではいけません。「と書いてある。」と言う後半も覚えるのです。どこに書いてあるのかと言うと、聖書の中の申命記8章3節です。聖書は未来永劫変わらない神様の言葉です。この永遠不変の聖書の言葉だからこそ、力が有ります。悪魔も知っています。だから聖書の御言葉を言われると、悪魔はぐうの音も出ないのです。
私は、多くの日本人がこのみ言葉、『人はパンだけで生きるのではない』、を知らないで、人生を送っていることを悲しく思います。ほとんどの日本人が、「私はパンで生きている」と考えています。つまり神様抜きで生活できると思っていることです。それでいて、死んだら天国に行けると信じているのです。死んだら天国に行けると誰が保証しているのでしょうか。何の保証も無いのです。何の保証も無しに死んだら、地獄に行くしかないじゃないですか。まことに残念ながら能天気と言わざるを得ません。伝道者の書の著者は、このように警告しています。伝道者の書12章1節です。「あなたの若い日に、あなたの創造者を覚えよ。わざわいの日が来ないうちに、また『何の喜びもない』と言う年月が近づく前に。」伝道者の著者は、あなたの創造者を若い時に覚えないと、災いの日が必ず来ると警告しています。災いの日とは何か。言わなくてもわかりますね。恐ろしい日です。
さて、悪魔は、次にイエス様を高い山の上に引き上げて、瞬く間に世界の国々を全部見せて言いました。7節です。「この、国々のいっさいの権力と栄光とをあなたに差し上げましょう。それは私に任されているので、私がこれと思う人に差し上げるのです。ですから、もしあなたが私を拝むなら、すべてをあなたのものとしましょう。」
もしイエス様がこの悪魔の申し出に心惹かれ、悪魔を拝んだとしたらどうなるのでしょうか。イエス様は王様になるどころか、悪魔の奴隷に成り下がってしまいます。悪魔は口先だけです。全世界の国々国の栄光と権力は父なる神様のものなのです。イエス様はそのことを知っていますから、この様に答えました。「『あなたの神である主を拝み、主にだけ仕えなさい』と書いてある。」（申命記6：13）私たちが拝み、仕えなければならないのは、人間でも、悪魔でもありません。私たちが拝み、仕えなければならないのは、父なる神様であり御子なる主イエス様なのです。イエス様は父なる神様を、「あなたの神」と言われました。あなたとは私たちのことです。父なる神様は、私たちをお母さんの胎内で組み立てられました。ですから父なる神様は私たちの造り主なのです。この御方だけを拝み、この御方だけに仕えなければなりません。そうでないと私たちは悪魔に仕える奴隷となり、不安定な生活、困難に直面する生活、不幸な生活へと転落してゆき、明るい明日は決してありません。
イエス様を父なる神様から切り離すことも、奴隷とすることも失敗した悪魔は、こんどエルサレム神殿の一番高い場所に連れて行き、この様に言いました。「あなたが神の子なら、ここから飛び降りなさい。『神は、御使いたちに命じてあなたを守らせる』とも、『あなたの足が石に打ち当たることのないように、彼らの手で、あなたをささえさせる』とも書いてあるからです。」何時もイエス様が御言葉で反論してくるので、悪魔も同じ手法に戦法を変えました。でも悪魔が引用したこの二つの御言葉は、詩篇91篇11節と12節から引用された御言葉です。先程讃美した本日の入祭唱はこの詩篇91篇11、12節を含んだ箇所です。この詩篇91篇は、私たちが父なる神様を信じ、信頼すれば、父なる神様は私たちを守ってくださるという約束の詩篇です。ですから、私たちが、何も心配しないで道を歩き、車を運転し、外で働き、家でくつろぐことができるのは、父なる神様が守ってくださるという信頼があるからです。それなのに、私たちが理由もなく敢えて危険な行為をすることは、父なる神様を信頼しているのではなく、試みていることになるのです。この事は、私たち自身を父なる神様の上に置き、私たちを「神」とすることを意味しています。これは由々しき問題です。ですからイエス様は、この様に厳しく言われました。「『あなたの神である主を試みてはならない』と言われている。」悪魔は自分の心中の企みを図星され、すごすごと引き下がらざるを得ませんでした。
このように、イエス様の救い主としての最初の任務は、悪魔の試みに遭われることでした。それはとりもなおさず、私たちがイエス様を救い主と信じるためであり、信じた私たちに、悪魔の試みへの対処法を伝授するためでした。大切なのはイエス様が悪魔に対して言われた三つの御言葉です。「『人はパンだけで生きるのではない』と書いてある。」「『あなたの神である主を拝み、主にだけ仕えなさい』と書いてある。」「『あなたの神である主を試みてはならない』と言われている。」この三つの御言葉を覚えましょう。この三つの御言葉が、私たちにまことの信仰を与え、敬虔な生活を送らせ、謙遜な心を形創ってくれます。この御言葉の元となっている聖書を繰り返して読み、御言葉を心の糧としましょう。そうすれば神様に守られ、祝福に満ち溢れる人生とならせていただけます。
人の全ての考えに勝る神の平安が、あなた方の心と思いを、キリスト・イエスにあって守ってくださいますように。アーメン。
©2019 Rev. Manabu Wakabayashi
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