人を見かけで判断しない 川下真理
~ものごとを見た目の印象や自分の思い込みで判断してしまう人間~
海外に出かけると、当然いろいろな国のかたに出会う機会が増えます。特に私の場合、ドミトリーという形式の安い宿泊施設を利用するので、相部屋で他の旅人と交流のきっかけが生まれることも多く、いつも好んで泊まっています。ご心配をおかけしないようお伝えしておくと、私は女性専用の部屋にしか泊まりませんし、現地で自分の目で見てスタッフと話をして、安心感や値段など納得のいった場所を選ぶようにしています。
あるとき、今日はここに泊まると決めてチェックインをしていたところ、カウンターのある場所が宿泊者の共同スペースも兼ねていて、何かパソコンで作業している女の子がいました。見た目はアジア人ではありましたが、様子からしてまず日本人ではないと思いました。ふと目が合うとにやっと笑って英語で挨拶してきたのでこちらも挨拶を返し、当たり障りのない会話を始めました。出身の話になり、私は日本だと答えると驚いた様子で、実は彼女も日本人だと言い始めました。
「正確には日本と中国のハーフだけど、今は香港で働いていて、姉は日本に住んでる」「あなたは日本に住んだことあるの」「あるよ」「じゃあ日本語も話せる?」「うん」「…」「…」そこで私たちはお互い、日本語話者であるにもかかわらず、これまでずっと英語で会話していたことに気が付き、おかしくなって笑いだしました。彼女は私と歳も近く、さっぱりとした物言いをする子で、すぐに親しくなりました。
またある町では、混んだカフェで順番待ちをしていたところ、隣で待っていた若い女の子と世間話になりました。内心、日本人のような外見だと思ったのですが、念のため英語で話しかけると流暢な英語で返事が返ってきたため、「そうか、日本人じゃないのか」と思い「混んでますねえ」などと他愛のない会話を続け、そのうち順番が来て別れて席につきました。
その日は忙しすぎたためか、ウェイターがメニューを持ってくることもなく、他の人が見終わったところに自分で取りに行くシステムになっているようでした。ふと見ると、さっきの女の子が注文を終え、メニューをカウンターに戻しにいくのが見えました。「それちょうだい」と声をかけると少し戸惑った様子で、「でもこれ、日本語で…」と日本語版メニューであることを見せてくれました。彼女はやはり日本人だったようです。「ああ…そうなんですね。それで大丈夫です」というと、不思議そうな顔をしたあと、はっとして私の顔を見るので、「そう、私も日本人なの」と明かしました。お互い日本人のように見えると思いつつ、慎重に会話を進めた結果、日本人ではないらしいという結論に至っていたことがわかりました。私はその町に着いてたった二日目でしたが、今日来たばかりで心配だという彼女に、車が途切れない道路の渡り方や、付近のお店の情報など教えて、先輩になった気分を味わいました。
別の国では、例によって安いドミトリーの共有スペースでくつろいでいると、一人の青年に出くわしました。「ああ…見るからにこういう旅人によくいるタイプの日本人だ。絡まれると面倒くさそうだな」と思って目をそらしていました。私より明らかに旅慣れていて、求められてもいないアドバイスをしたがったり、金品を欲しがってくるたちの人だったら嫌だなあと思ったのです(中にはそういう人もいるので、同胞だとしても、むしろだからこそ、やっかいだし簡単には気を許せません)。
しかし、あろうことか彼は「どこからきたの」とわざわざ英語で話しかけてきたのです。どうせお互い日本人だとわかっているくせに、やっぱり嫌なやつだと思いました。その日はもともと気が立っていたこともあり、かっとなって「中国でも韓国でもない。じゃあどこだと思う」と英語で言い返しました。
すると彼は落ち着いた様子で、「なるほどね。実はこんなことを聞くのは君にとってはフェアじゃない。というのも、僕はここのスタッフで、君の宿泊にあたっての情報を既に知っているから」と淡々と言うのです。それを聞くうち、彼のなまりが明らかに日本人のものでないことにも気が付きました。聞けば彼はまた別の2国の混血の人で、決して悪い人でもなく、むしろいい友人となりました。
何にしろ、安易に見た目や思い込みで人を判断するのはよくないものです。
しかし主はサムエルに仰せられた。「彼の容貌や、背の高さを見てはならない。私は彼を退けている。人が見るようには見ないからだ。人はうわべを見るが、主は心を見る」Ⅰサムエル16:2
No Response to “人を見かけで判断しない 川下真理”